雑炊の時代、平成を振り返る。


佐藤優、片山杜秀(2018)『平成史』小学館

片山 不況のなかで育った若者たちは騙されていたと気づいたんでしょうね。自由だ、自由だ、と言われて、実は捨てられているのだと。(本書 p.30)

佐藤 (中略)政治でもメディアでも情報は皇居を中心にして半径5キロ以内に集中している。『そこまで言って委員会』はそこから外れて独立している面白い存在です。(本書 p.176)

本書はタイトルで半藤一利『昭和史』を思い出させます。バブル崩壊で始まり、何度かの自然災害とテロとの戦いを経て憲政史上初の天皇生前退位で幕を閉じる(予定の)平成について語り尽くした対談です。内政、外交から東京タラレバ娘シン・ゴジラに至るまで、硬軟合わせた話題で対話が進んでいきます。

平成は何が起きるかわからない雑炊のような時代、あるいはポストモダン的なパッチワークの時代です。特に政治では世界的に独裁的な傾向が強くなりました。日本も例外ではありません。「戦後レジームからの脱却」を掲げた安倍政権は、文面通りに読めば「脱アメリカ」なのかと思いきやトランプ政権とは蜜月の関係にあります。小泉政権以降、こうしたその場の勢いでふわっと乗り切る傾向が強まりました。それは反知性主義の拡大であり、裏返していうと橋下大阪府知事やなんとかチルドレンと呼ばれる大した哲学のない、やりたいことのない政治家が増えたことにも繋がります。

二人がたびたび指摘しているのは、中間団体の消滅です。かつては労働組合などが力を持っていて、国家と個人を取り結ぶ中間団体に働きかけることで民意を選挙結果に反映させることができました。しかし公社の解体などを経て、いまや国政に影響を与える中間団体は創価学会だけになりました。そのため、マスコミや世間の空気で選挙結果が大きく左右されることになりました。そうした空気をくみとってか、手続きのかかる民主主義から劇場型政治へと変わっていきました。

二人は、平成は昭和の遺産を食いつぶし、豊かだったが幸せかどうかはわからない時代だったと結論づけます。食いつぶすことしかしなかった時代の、次の時代は何かを生み出さねば右肩下がりになります。困難な時代だからこそ、冷静に、時間をある程度かけて今後の練らねばいけません。個人レベルでは、そうした次代を見据えて生き抜く方法を考えないといけません。

本書で語られていないもう一つの大きなできごとは2度あった全日空機ハイジャック事件とネオ麦茶こと西鉄バスジャック事件でしょう。前者で警察にSAT(特殊急襲部隊)があること、後者ではバスの窓の幅にちょうど合うはしごが準備されたことから、バスジャックを想定した訓練を行っていることが明らかになりました。その後、通信傍受法などができて、日本の警察のテロ対策も着々と進みます。結果、中核派や日本赤軍の大物を検挙するに至りましたが、同時に息苦しい社会となっていきました。これもオウム真理教や911、イスラム国などとの文脈で語られていい事件だったと思います。



会社で生き延びるに意外と使える旧日本軍のマニュアル


佐藤優(2017)『牙を研げ 会社を生き抜くための教養』講談社

読みたくないのに読ませてもだめです。そういう人は出世しませんから時間の無駄です。だから、やる気のない人を相手にしない方がいい。人生は短いですから。(本書 pp.277-278)

いま、日本の内外にはさまざまな危機が取り巻いています。このクライシスを乗り越えるためにも、着実に力をつけることが求められているのです。(本書 p.282)

 会社は教養で生き抜けます。逆に言うと、教養を使わないと生きづらい社会が会社だということです。よほどの零細企業や個人事業主出ない限り、会社には仲間がいます。その中では比較的波長の合う人、合わない人が出てきます。自分が教養をつけてしなやかになる(思考の柔軟性を持つ)とともに、波長の合う人と上手に付き合っていくのが生き抜くコツです。

 本書で佐藤は独断専行、宗教、論理学、地政学、資本主義、日本史、数学がビジネスパーソンが生き抜くにあたって必要な牙だとしています。具体的には以下の見出しをつけて身につけるべき教養をあげています。

  1. 旧日本陸軍マニュアルに学ぶ仕事術
  2. 世界のエリートの思考法を理解するための宗教入門
  3. 論理の崩れを見抜く力をいかに鍛えるか
  4. 地政学を知ることで、激動する国際情勢がわかる
  5. 資本主義という世の中のカラクリをつかむ
  6. これだけは知っておきたい日本近現代史
  7. エリートの数学力低下という危機
  8. 本をいかに選び、いかに読むか……

興味深いのは一番初めに独断専行の研究として旧日本軍のマニュアルを持ってきたことでしょう。負けた軍隊のマニュアルなんて、何の役に立つの? と思われるかもしれません。ここで使われているのは陸軍のエリートに向けて書かれた『統帥綱領』ではなく、兵卒に向けて書かれた『作戦要務令』です。後者では戦況に応じて撤退をすることまでもマニュアル化されていました。一方、「死して虜囚の辱めを受けず」をよしとした戦陣訓を大事にした陸軍のエリートたちは柔軟な思考ができず、撤退の指示ができませんでした。

『作戦要務令』で興味深いのは独断専行を認めていることです。独断専行はある程度、上司の信頼という後ろ盾がないとやりづらい。だけど独断専行という形を取って上司の思いつかないこと、上司が踏ん切りつかないことをするのは、軍隊のような年功序列で硬直した組織が柔軟化するには必要だったのです。

だからといって準備もなしに独断専行をするのは危険です。大体、上司は「うまくやれ」と言って、できた時は「よくやった」と手柄を取り上げ、できなかった時は「なぜ指示通りに動かなかった」とこちらに責任を擦り付ける形で叱責します。そして独断専行をした人はトカゲのしっぽきりにあってしまいます。

そうならないために、うまくいかなかったときはその原因を突き止め、上手に上司に責任を押し付けることが大事だと佐藤は指摘します。結局、仕事をするにあたっては常に冷静な判断をすることが一番大事なようです。

その他の項目は宗教に代表される人々を魅惑する論理、論理学、国際情勢、数学、読書は仕事に役立つとなんとなくわかります。日本史については、過去のパターンを知れば、現代起きている事象のパターンがわかります。佐藤は歴史に二分法を入れて時流に乗った人物として小泉純一郎、田中真紀子、そして小池百合子をあげています。歴史に学ぶと、現代から近未来が見えてきます。

なお、『作戦要務令』は以下の国会図書館のサイトで画像として読めます。
http://iss.ndl.go.jp/books?ar=4e1f&any=作戦要務令&op_id=1&display=&mediatype=6



稼いでも稼いでも楽にならない現状を変えるには


河上肇、佐藤優(2016)『貧乏物語 現代語訳』講談社

一九八〇年代前半、「オレたちひょうきん族」(フジテレビ系)では明石家さんまらが「貧乏」をネタにすることができた。しかし、いま、テレビで「あなた貧乏人?」と突っ込むのは禁句に近い。
(本書 p.9)

機械が最も盛んに利用されている西洋の先進諸国において、-この物語のはじめでお話ししたように-貧乏人が非常にたくさんいるというのは、いかにも不思議なことです。
(本書 p.111)

第一次世界大戦のころに書かれた本のリメイク版です。前後に佐藤優による解説がついています。しかし内容は今の時代に読んでも古さを感じません。

河上はイギリスの例を挙げ、なぜあれほどの先進国で貧乏人が多くいるのかと疑問を投げかけます。貧乏人は一日に必要なカロリーを得ることすらできない、「貧乏線」以下の状況で暮らしています。

河上は金持ちが無駄遣いをやめ、余ったお金で社会の人に役立つお金の使い方をすれば貧乏人は減るといいます。嗜好品を求めるから嗜好品工場ばかり増えるけど、それを減らして生活必需品の工場が増えるようなお金の使い方をしなさいと述べます。ひとえに、金持ちの人間性を頼りにした性善説です。

しかし、現実はそうはうまくいきません。金持ちは貧乏人のためにお金を使うことはほとんどありません。そのため、再分配はやはり国家や自治体などの役割になってきます。100年たっても経済格差も格差の解決が難しいことも、時と場所を超えた真理として響いてきます。

状況が良くなったのは、革命の危険があるから貧乏をなくそうとしていた冷戦時代という特別な時期だけでした。「稼ぐに追いつく貧乏なし」が通じたのは、その時代でした。しかし、今は稼いでも稼いでも我が暮らし楽にならざり、の時代が再来しています。性善説で金持ちの人間性に任せるか、性悪説で政府の再分配機能を強化するか。もはや座視できません。私たちの選択が迫られています。



昭和史の大家と国際情勢の専門家が語りつくす近代


半藤一利、佐藤優(2016)『21世紀の戦争論 昭和史から考える』文藝春秋

半藤 (筆者註:辻政信は)眼光も炯々としていて、人を引きつける迫力のようなものはあったと思います。(本書 p.54)

佐藤 この釧路-留萌線での分割によって、ソ連は道義性も示せます。日本人民の意志によって共和国をつくり、日本人民の要請に応えて北樺太まで渡すというわけですから。スターリンには領土的な野心はまったくないという証明にもなる。そうすると冷戦が終わったとき、南北日本が統一されて、逆に樺太が「日本」になっていたかもしれない。(本書 p.143)

 昭和史の大家である半藤一利と国際情勢の専門家である佐藤優の対談本です。5回15時間以上に及ぶ対談の一部は『文藝春秋』などに連載されました。

 半藤一利は昭和5年生、東大文学部を卒業してから文藝春秋に入社し、顧問を経て退職するまで雑誌編集者として過ごします。夏目漱石の遠戚であると同時に昭和史に関する本も多く出し、1998年には『ノモンハンの夏』で山本七平賞、2004年『昭和史』で毎日出版文化賞特別賞を受賞しています。

 昭和30年代から取材を続けている半藤の話は、戦後タイで僧侶に変装、潜伏して戦犯にもならずに衆議院議員になり1968年(昭和43年)に謎の失踪をした辻政信や、関東軍幹部で細菌兵器の開発などの裏事情も知っていて、終戦後はシベリア抑留と同時にソ連のスパイになった朝枝繁春など、歴史の生き証人にインタビューした時の話や人物像などが出ていて、説得力があります。辻がラオスで処刑された話や日本が敗戦時にマニラにいたマッカーサのところにまで降伏文書を取りに行った話など、興味深い話をしています。

 さらに、ソ連・ロシア事情に詳しい佐藤優が対談をして、二人で第二次世界大戦時の日ソの戦争について語らいます。日本は戦争を始めたけれども、世界情勢を読みきれず、終わらせ方もわからなかったという意見は、戦後70年以上経った今でも変わらないと思います。

 佐藤優はモスクワのフランス大使館の前には長寿研究所があり、そこでは指導者層のために長寿を研究する一方、未だにインフルエンザが流行るとそれが自然由来のものかどうかを調べているという話を披露しています。以下のところが周辺地図ですが、どの建物でしょう?


金正日の息子もソ連崩壊を目の当たりにした?


佐藤優(2016)『世界観』小学館新書

ある時この家庭教師が、北朝鮮製のクッキーとキャンデーを持ってきた。筆者が「どこで手に入れたのか」と尋ねると、「北朝鮮大使館でもらった」と答えた。金正日の息子にロシア語を教えているという。(本書 p.196)

教養を身に着けた本物の選良(エリート)になることが、ブラック企業から抜け出す最良の方法だ。(本書 p.272)

 佐藤優の『SAPIO』での連載をまとめたものです。2012年頃~2016年までの原稿をまとめています。

 少し古めに感じる記述もありますが、序文で書いてある通り、事柄の大枠については外していないといえます。

 私はサウジアラビアの石油減産政策は、イランの核開発阻止、アメリカのシェールオイル阻止を狙ったチキンレースだと思っていたのですが、佐藤氏の見立てでは現状でも赤字ではないから今後もしばらく続くだろうとのことでした。このあたりはちゃんと見ている人でないとわかりません。

 中東のイスラム国やイスラエルの他、専門のロシアから中国、北朝鮮に至るまで、佐藤氏は鋭く切り込みます。

 一番役に立つのは、昨今話題のブラック企業についてです。外務省ではルーブルの換金で大使館ぐるみの犯罪にまで加担し、上司による成果の横取りなど当たり前と思っていた佐藤氏ですが、今振り返ると個人の努力次第で実力がついたと語っています。ブラック企業から抜け出すのは、実力をつけるしかないというのは金言です。一方、努力しても実力がつかない人も一定割合で存在します。彼らをどうやって救うかが、今後の日本社会、あるいは政治の課題といえます。

 個人的には、金正日の息子にロシア語を教えている人に、佐藤優がロシア語を教わっていたというエピソードが興味深かったです。どの息子かは分からなかったと書かれてあります。おそらくはその後のソ連崩壊を目の当たりにしたその息子とは、一体、誰のことなのでしょう?


低迷混沌の現代を最低限のストレスで生き抜くために


佐藤優(2016)『秩序なき時代の知性』ポプラ社

木暮 (中略)ある一定の基準を超えたら、そこから先の幸福度は、お金には関係ないように思いますけどね。
佐藤 ある一定の基準というのは、数字としてどのくらいをイメージされてますか。
木暮 いまだと、ひとり暮らしなら300万円だと思っています。(本書 pp.90-91)

開沼 (中略)福島には以前から、東京発信の「福島かくあるべし」に嫌気が差している人が多くいます。そろそろ「自分たちの言葉」をつくっていかなければという感覚が熟してきているのかなと。(本書 p.158)

 佐藤優の連載対談で『右肩下がりの君たちへ』の続編にあたります。

 今回は

  • 開沼博(社会学者:フクシマ)
  • 國分功一郎(哲学者:哲学)
  • 木暮太一(作家:経済)
  • 水野祐(弁護士:法律)
  • 與那覇潤(歴史学者:歴史)

の5名と対談します。

 國分功一郎は地元である小平市の道路建設に際して、住民の生活に影響がでるのに行政の判断に住民の意見が反映されない事に気づき、住民投票を起こしました。結局、住民投票の投票率が低かったとされて、開票されることなく票は焼却処分されました。市長選とほぼ同じ投票率だったにも関わらず。ここに、國分は現代日本の民主主義の限界を見ます。

 木暮太一とは経済の、特にお金にまつわる話をします。佐藤も木暮も、だいたい欲しいものは手に入ったから物欲がなくなったという点で共通しています。これは私も同じで、ネット環境と衣食住に事欠かなかったら大体満足してしまいます。この対談は身の回りの人々の金銭感覚を等身大に表していると思いました。

 この本の一番の見どころは、やっぱり開沼博でしょう。福島出身の社会学者で、地元の当事者としても発言できる強みがあります。すなわち、福島のことが皮膚感覚で分かった上で話のできる貴重な知識人です。

 反原発、反基地、反自民とパッケージ化して語られるようになってしまったけれど、現実問題として福島の問題を語るには健全な状態ではありません。反原発にしても放射性廃棄物処理と数十年単位で関わっていかないといけない、すると技術者を養成しないといけない、そのためには原子力工学が魅力的なものであると発信しないと優秀な人材が集まらない。

 理想論ではなくて現実的な発想が必要です。廃炉だけでなく、帰村やコミュニティ形成方法なども同じことがいえます。やっとそろそろこういう議論が出来るようになってきた、というところにこの問題の根深さを感じさせました。

 情報過多の福島第一原発について語るため、百科事典形式にして出した『福島第一原発廃炉図鑑』は論点が整理されたデータブックとして、ほとんどクレームがつかなかったとのことで、興味がわきました。

 本書は若い世代との対談なので、若い世代が何を考え、どうやって社会と向き合って変えていこうとしているかが見て取れます。今の時代を生き抜く考え方が何パターンも出ていて、大いに参考にできそうです。


「一億総滑落社会」を変えるために政治家と語る


井手英策、佐藤優、前原誠司(2016)『分断社会ニッポン』東洋経済新報社

前原 まあちょっと愚痴になりますけれども、議員年金が2006年からなくなったんです。(中略)そうすると私は国民年金だけなんです。(中略)議員生活を終えても退職金はない。いったいどうやって生きていくかというのは、私にとっては切実な問題なんですよ。
佐藤 金持ちしか政治家になれないということになっちゃいますよね、逆に。(本書 p.107)

井手 (中略)誰ということはないですけど、明らかに金持ちのボンボンが「格差是正」と言ったらみんなシラッとしますよね。
佐藤 そう。「シャッター街をなくしましょう」って、お前のおやじが創った大会社が商店街を潰したんじゃないかというような話になったらダメなんですね。(本書 p.166)

 井手英策 慶應義塾大学教授、前原誠司 衆議院議員、佐藤優による、日本の現状をいかに良くしていくかをテーマにした鼎談本です。井手は各地を調べて、例えば富山県では女性が働きに出る率が高いが、それは三世代同居に支えられているからだといった、全国に活かせそうな地方の特色を述べています。ただ、三世代同居は今後永続的に維持が可能な制度ではないこと、正社員の配偶者は配偶者控除を受けられるのに派遣社員の夫婦は配偶者控除を受けられないなど、現状の問題点も鋭く指摘します。

 三人とも、減税一辺倒ではなくて、有効活用するのだというアピールをして税をもらえば納税者も納得するのではないか、という議論を多くしています。今後の人口減を前にして、経済成長が見込みづらいとなれば、教育無償化等で充実させ、地域や共同体で助け合って暮らしていく。そうした社会にしていくのが政治の役割であると具体例を出して語っています。前原誠司という政治家が入っているからこそ、議論に真剣味も現実味も増しています。少しは政治を信じていいのかも、と思える本です。

 前原議員は八ッ場ダムの中止から再開で批判されましたが、ダム全体の見直しをして無駄を減らしたことなど、実績はあるのに有権者からは厳しい批判を浴びたなど、政治の厳しさを覗かせる発言をしています。一方で

「国民、特に政治に翻弄され続けてきた長野含め地元の皆さんには、心からお詫びを申し上げたい」(本書 p.197、太字は筆者)

と、県と書くべきところを誤変換している。電子書籍ならしれっと訂正されるのだろうけど、ちゃんと証拠が残るのは紙のいいところですね。

 前原誠司は京大法学部時代、高坂正堯(こうさかまさたか)ゼミに所属していました。弟(*1)の高坂節三 日本漢字能力検定協会理事長・代表理事は同協会の汚職事件(刑事・民事でそれぞれ裁判になった)があったとき非常勤理事でしたが、責任を取るどころか、いつの間にかトップに就任しています。そんな同氏は東京都教育委員在任中にまえはら誠司東京後援会の代表を勤めており、これは地方教育行政法違反であることが指摘されています(罰則規定はない)(*3)。

 清濁併せ呑むのが政治、私達有権者がしっかり見て、意見を言い、判断しなくてはいけません。

 冒頭の引用の「おやじが創った大会社」は某イ○ンのことを言っているのかなと思いました。

*1 【解答乱麻】日本漢字能力検定協会代表理事・高坂節三(産経新聞)
http://www.sankei.com/life/news/140823/lif1408230011-n1.html
*2 財団法人日本漢字能力検定協会について(池坊保子ブログ)
http://yasukoikenobo.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-8d56.html
*3 第177回国会 文部科学委員会 第11号(平成23年5月20日(金曜日))
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009617720110520011.htm


達人が教える最強の情報収集法


池上彰、佐藤優(2016)『僕らが毎日やっている最強の読み方』東洋経済新報社

『朝日新聞』の論調が嫌いな人も、「朝日新聞デジタル」に目を通す習慣をつけたほうがいいでしょう(本書 p.71)

いまの時代にインプットの時間を確保するには、あえて「ネット断ち」や「スマホ断ち」をする必要があるかもしれません。(本書 p.173)

僕らが毎日やっている最強の読み方;新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意

『新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方』(文春新書)『大世界史 現代を生きぬく最強の教科書』(文春新書)『新・リーダー論大格差時代のインテリジェンス』(文春新書)に続く二人の共著です。これまでと同様、対談形式になっています。

二人は新聞、雑誌、ネット、書籍の順番に付き合い方、情報収集の仕方を語っていきます。最近の新聞は国際面が貧弱になってきていることや、社説以外にも独自色を出して報道をしていることから、二人とも二紙以上購読することを薦めています。佐藤氏が朝日新聞の電子版購読を薦めているのは、政治エリートに影響力を持っている新聞だからです。そうした、新聞を読んでいるだけでは分かり得ない情報を教えてもらえるのが書籍の強みです。

また、二人とも意外なことに雑誌をよく読んでいます。「読書人階級のための娯楽」(佐藤)というように、あくまでも娯楽として付き合っていくべきとのスタンスは二人で共通するものの、やはり時代の流れやその取材力は侮れません。

ネットについては二人ともまだ付き合い方を模索している感じが見て取れます。ネットは玉石混淆ですが、明らかに石が多いので、二人とも有料の会員制サイトを使って情報収集しています。佐藤氏に至っては「ネットサーフィンの誘惑」を断ち切る必要があると断言しているあたり、私と変わらない誘惑に負けがちな精神の持ち主であることが見て取れて安心します。(さらにいうと、私は誘惑に負けてしまう方ですが。)

月90本の締め切りを抱える佐藤氏と月18本の締め切りを抱える池上氏の、新聞、雑誌、ネット、本との付き合い方は勉強になります。

冒頭に二人の仕事部屋が16ページ、カラーで紹介されています。大学教員の池上氏より、佐藤氏の方が知的な感じがするのは、硬派な本が多いからでしょうか。日本に数セットしかないブハーリン編纂レーニン全集があるなど、書痴的な側面が見えるからかもしれません。


国家に寄生する官僚の暴走を防ぐ方法


佐藤優(2015)『官僚階級論 霞が関といかに闘うか』株式会社にんげん出版

危機となれば官僚階級の意思が前面におしだされます。主権者が人民でなく、じつは国家であることが露呈するわけです。リーマン・ショックの金融危機での国家介入はまさにその最たるものですし、そうした国家の介入が歓迎されます。国家の介入が歓迎されるムードが昂じれば、人民によってえらばれているのではない官僚階級の支配がせりだしてくることになります。(本書 p.267)

近代は、官僚階級が、事実上の王権の位置にいるといってもいいでしょう。(本書 p.293)

モナド新書 官僚階級論 (モナド新書010)

元官僚だった佐藤優が官僚たちに立ち向かう方法を考える方法を伝えます。

出版社の紹介ページでは構想7年と書かれてありますので、月刊佐藤優と言われるほどのペースを誇る著者にあっては、かなり練りこんで書かれた本だといえます。

丁寧ですが、読みづらいのも確かです。官僚は国家に寄生する階級だから、まずは国家の成り立ちから性質を分析します。そして国家に寄生する官僚の性質を解明し、最後にこれからの社会をより良くしていくためにはどうすればいいかを考察します。その際にマルクスやハーバマス、柄谷行人の論を参考にしています。どれも一級の知識人の書いたものを参考にしていることから、解説する形で難易度を落としているとはいえ、やはり難しいです。

現代の多くの国家は民主主義で成り立っています。民主主義は投票で国民を代表する政治家が選ばれます。これがたてまえです。実際はマルクスの言うとおり、ある階層の人々は自らを代表できず、誰かに代表してもらうしかありません。だから今の貧困層を真に代表する政治家が現れず、結局は限られた選択肢の中から選ぶしかありません。民主主義は投票でもそうですが、個人の事情を考えません。誰の一票も平等に扱われます。政治家ですら個々の事情を反映せず、本当に国民の代表にはなっていないのが現状です。国は官僚が回しているものです。政治家を選ぶのは、国民が国を動かしているように見せかけるための手続きです。

国を動かすことは、公権力を持つことです。公権力には暴力性が含まれます。小さな政府として、政府の機能を必要最小限にすると警察、軍隊、外務省しか残らなくなり、かなり暴力性が高くなります。暴力性の高い国家が国民を幸せに出来るとは思えません。暴力性を低くすることが官僚の暴走を防ぐことになります。300ページほどの本書では込み入った話をまとまりよく書いています。しかし、今の新自由主義に乗って暴力性を追求している国家(官僚)の様子を見ていると、この問題を解決するにはそうとうの時間と根気が必要になのが分かります。


世界を立体的に把握して時代を先読みする


池上彰 佐藤優(2015)『大世界史 現代を生きぬく最強の教科書』文藝春秋

佐藤 (前略)入学歴ばかりを求めるのは、いまの日本では、何もビリギャルに限った話ではありません。そういう人間がいくら大学に集まっても、国は強くならない。国力と教育は密接に関係しています。その意味では、日本とちがって、トルコやイランには本物のエリートがいます。(本書 p.213)

池上 無闇に英語で授業をしても、自ら英語植民地に退化するようなものです。そもそも大学の授業を母国語で行えることは、世界的に見れば数少ない国にしか許されていない特権です。その日本の強みをみずから進んで失うのは、これほど愚かなことはありません。(本書 p.227)

大世界史 現代を生きぬく最強の教科書 (文春新書)

世界を立体で把握してこそ、私達のいまとこれからが分かります。

よくわからない文章になりました。しかし、これが本書のエッセンスです。本書は『新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方』 (文春新書)以来の、佐藤優と池上彰による対談です。二人の冷静な眼で世界を見ると、今後の世界情勢が少し見えてきます。

二人は今の不安定な世界情勢を、中東を中心に据え、それを取り巻く中国、ヨーロッパ、米国、日本の状況を見ていきます。

中東情勢はイスラエルの情報機関ですらさじを投げたほど、近い将来の結果が予測不可能です。米国とイランの歴史的な和解により、イランは核開発を継続し、核保有国になるのも時間の問題となりました。するとイランの国教であるシーア派と対抗するスンニ派の国家、サウジアラビアやバーレーン、エジプト、ヨルダンといった国々も核兵器を持つ可能性が高まります。もしかいたらISですら持つかもしれません。世界中で核保有のハードルが下がれば実際に核開発をしていた韓国だって持つかもしれません。世界はますます混迷を深めます。

そんな状況で、米国の次期大統領(ヒラリー・クリントン?)が「公共事業」として戦争を行えば世界はますます混迷を深めます。

混迷を深めないためにはどうすればよいか。答えは簡単です。改めて世界の歴史を見返し、過去を鏡として現代に生かせばいいのです。そのためには教養を持ち、自らの能力を社会に還元することができる本当のエリートの働きが重要になります。しかし、今の日本では「すぐに使える学問」ばかりが優先されて、教養が顧みられていません。世界史的な動きを左右するときに本当に必要になるのは、「すぐに使えない学問」の代表である教養であるにもかかわらず。

今後の世界情勢と自らの立ち位置を考えるには、世界を地理的な広がりといった2次元で見るだけではなく、さらに時間を遡って歴史に目を向ける3次元的な視野が必要になります。近視眼的な発想では乗り越えられない課題が目の前にあることを知る教養が、今一番必要とされています。