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地獄の人生も天国にできる

佐藤優・田原総一朗(2022)『人生は天国か、それとも地獄か』白秋社

田原 振り返ってみれば、米寿を迎えた私が私語尾を現役で続けていられるのも、不器用であり、決してエリートではなかったことが、逆に功を奏したのかもしれません。特に不器用だからこそ、唯一の趣味たる「人と会うこと」を大事にしてきました。

本書 p.23

田原 ついに私は、「実は、外務省は有本恵子さんや横田めぐみさんらが生きていないことを知っているはずだ」と畳見かけてしまいました。(中略)私は非常に心が痛み、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。私は、この発言について、有本さん、そして横田さんたちに対し、何度も謝罪しました。

本書 p.119

佐藤 また透析を始めたのを機に、公演やラジオ出演は控えるようにしました。これまでの仕事全体を見たときに、私はやはり文章を書くことを優先すべきだと考えたからです。

本書 p.153

佐藤 何がいいだろうかと迷っている人には、私は「地元の歴史や文化を調べる」ことを勧めています。日本全国、それぞれの地方や地域には、独自の歴史や文化があるからです。

本書 p.174

作家の佐藤優とジャーナリストの田原総一朗がお互いの人生について「対談」している本です。対談と言っても、お互いが短い言葉を語り合う対談本ではありません。時には数ページにわたって片方の話(エッセイ?)が載り、そのあとに片方の話(エッセイ?)が載る、といった形をとっている、一風変わった対談本です。

田原総一朗は42歳で原子力の賛成派と反対派に関する連載を書き、電通から圧力をかけられて東京12チャンネルを退職後、フリーになります。その後フリーになり、文字が読めなくなってチームの仲間に口述筆記を頼んで原稿を書いたり、2人の妻に先立たれ、娘の子育てをするなど苦労を経験しています。それでも人と会うことが好きな田原は、娘にご飯を食べさせている横で宮澤喜一や堤真一などの政財界の大御所にインタビューをして、仕事をし続けました。そして現在も、滑舌が悪くなり記憶力も衰えたことを自覚しつつ、「朝まで生テレビ」に出演しています。

佐藤優も42歳で鈴木宗男事件に巻き込まれ、外務省からパージされた後、作家として花開いて現在まで仕事をし続けていますが、腎機能が低下して人工透析をしているほか、前立腺がんも発覚し、自身の仕事に優先順位をつけて作家業と後進の育成に軸足を置くようになりました。

二人は人生が地獄に思えるぐらいの試練を受けています。田原は妻に2回も先立たれ、絶望の淵に追いやられたものの、今では同窓会で出会った彼女と仲良くしているそうです。佐藤はこのまま腎臓の透析をし続けても平均余命は8年、妻からの腎臓移植を決意したそうですが、それまでには多数のハードルがあるようです。

二人に共通しているのは、どんな境遇においても自分を見つめなおし、やりたいこと見つけ、自分の活躍できる範囲で活躍していることです。私たちの多くは彼ら二人ほどのバイタリティはないかもしれません。ですがやりたいことの全くない人もいなければ、できることの全くない人もいないはずです。自分のできる範囲で、できることをして余生をいじけず生きる指南書に、本書はなっています。

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資本主義の暴走を生き残るには

田原総一朗、佐藤優、宮崎学(2015)『「殺しあう」世界の読み方』アスコム

宮崎 田原さんも僕も早稲田大学だけど、いまや早稲田も金持ちの子弟しかいけなくなりつつある。
田原 昔は、役人だけは貧富の差なんて関係ない、貧乏でも東大に入って大蔵省に行けば出世できる、という話だったけど。
佐藤 いや、中高とカネのかかる進学校に行き、大学でもダブルスクール(予備校や専修学校などにも通う)ができる経済力がなければ、公務員試験にも合格しなくなってきた。
宮崎 カネがないと教育できない、教育がないとカネが稼げない。ということは、貧困が家庭ごとに固定化する。これは深刻な問題です。これまで差別や貧困は社会や本人の努力に寄ってある程度は変えることができた。可変的だったのが、固定的になってしまっている。(本書 p.38)

グリコ・森永の「キツネ目の男」の重要参考人にしてヤクザの組長の家に生まれた宮崎学と、『国家の崩壊』 (角川文庫)で共に仕事をした佐藤優が、田原総一朗の監修のもと、対談を行っています。

宮崎学は共産党でバリバリと活躍していた活動家でした。一方で佐藤は共産党に詰められた経験があるから反射的に身構えてしまう、どちらかというと社会党よりの経歴を持っています。そんな二人の対談を、田原総一朗が朝ナマばりの進行で進めていきます。

この本を読んで逆に驚くのは、彼らの世代(50~70代)の若い頃は金持ちでなくても私学に通えて、教育を受けさせることができて、ある程度社会的な成功が望めたことです。今の時代は受験にも就職活動にもお金がかかります。お金がないと大した教育も、よい就職先もなく、まさに貧困が受け継がれていきます。

世界経済も限界に来ているし、閉塞感が漂っている。資本主義がこれでいいかという問題と同時に、米国が最大の公共事業として戦争に打って出る可能性や、若者を惹きつけて地域部族との関わりを持ちながら生き残っているISの影響拡大など、世界はまさに「殺しあう」時代に突入しています。

この本は具体的な生き方を呈示してはくれません。世界の見方を教えてくれる本です。世界を俯瞰して、急ぎ学び考えながら、私達は生き残り方を見出していかなければならない、そんな生きづらい時代であることを教えてくれる本です。

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