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資本論を知らないピケティ

池上彰、佐藤優(2015)『希望の資本論 私たちは資本主義の限界にどう向き合うか』朝日新聞出版

日本も、教育と生涯給与がリンクするアメリカ型のシステムになってきた。これによる社会的なストレスがどうなるかというシミュレーションをきちんとしておかないと、大変なことが起こるかもしれない。(本書 p.44)

『資本論』は、理解するのに1年かかる。それには特定の読み方を押し付けるのではなく、論理的に正しい読み方をすることが必要なんです。(中略)しかしそこで一回その方法を身につけてしまうと、これは華道や茶道、あるいは外国語能力と一緒で、一生使って運用できる。(本書 p.141)

希望の資本論 ― 私たちは資本主義の限界にどう向き合うか

不安な時代だからこそ『資本論』を読みなおす。

『資本論』はソ連の崩壊で共産圏がなくなった今、無価値になったのではありません。逆に今こそ、共産主義者というレッテルをはられず、虚心坦懐に『資本論』と向き合える時代なのです。

現代社会は全世界的に格差が増えています。賃金が上がり派遣社員が増えているということは、正社員の収入は増える一方、100円均一や吉野家などを使えば派遣社員も安い給料でもどうにか暮らしていける世の中になっているということです。しかし、結婚や子育てとなるとお金がかかります。経済の格差が教育の格差へとつながり、階層が固定化されます。そこでたまった鬱憤は、いつか何らかの形で発散されるはずです。それが、ISだったり新興宗教だったりします。

そんな不幸な時代だからこそ、『資本論』が役に立ちます。

『資本論』を読むと、資本主義経済の限界が見えます。そして自分はその中でどのような位置にいるか、全体の潮流に巻き込まれないためにはどうすればいいのかを判断する力が、『資本論』によって身につきます。生きづらい世の中を少し突き放して見ることで、巻き込まれないようにする。そういう人を少しずつ増やしていって社会を変えていければ、世の中がましになりそうです。

巻末には『21世紀の資本』の著者、ピケティと佐藤優の対談が収録されています。ピケティは『資本論』について「読むのはとても苦痛です」と語るほど、マルクスについては重要視していません。彼は多くのデータを集め、誤りがあったら修正していく形で現代社会の経済を明らかにし、格差是正を政治に求めます。政治で格差が解決できるはず。彼はあくまでも理性を信頼します。

一方、『資本論』はあくまでも労働者を生かさぬように殺さぬようにするのが資本家だと指摘します。理性を信じるかどうか。ここがマルクスとピケティの大きな違いと言えそうです。

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大変な時代だからこそ知の力で生きる

佐藤優(2015)『危機を克服する教養 知の実戦講義「歴史とは何か」』角川書店

アベノミクスも瑞穂の国資本主義も、私は念力主義の現代版だと思っています。現実的にはどう考えても、明らかに圧倒的大多数の国民生活の水準を下げていきます。そうすると子どもに高等教育を与えることが難しくなってくる。その結果、日本全体の知力は、世代交代によって低下するでしょう。社会の力も明らかに落ちていきます。そうしたところに向かっていると思うのです。(本書 p.231)

危機を克服する教養 知の実戦講義「歴史とは何か」

本書は佐藤優が朝日カルチャーセンターで行った連続講義に大幅な加筆を行って上梓したものである。

現代は危機の時代である。これを前提に、危機の時代をどう把握し、どう生きていくかを考える。

アベノミクスによる物価や株価の上昇はぱっと見るといい傾向に思える。だけど株式は所詮擬制資本。単なるデータであり実態ではない。物価上昇も目標は2%となっているが、一方で賃金は2%も上昇しない。名目上の賃金は上がっても、それ以上に物価が上がるのだから可処分所得は減っていき、圧倒的大多数の暮らしはどんどん貧しくなる。

少し考えたら簡単に分かるアベノミクスの限界。だけどそれに気づかないのか気づかないフリをしているのか、政権支持率は高い。そこに佐藤は反知性主義があるという。

反知性主義を「ふわっとした民意」と言い換えて上手に乗ったのが橋下徹だ。今の日本ではそうした傾向があちこちに見られる。

この傾向を推し進めると、日本は貧しくなり知力も下がり、戦争しやすい国、仕掛けられやすい国になっていく。明らかに我々のためにならない政策を行っている政権を我々は支持している。

生きづらい時代だからこそ耐えて知力をつけていくしかない、というのは、悲しいけども唯一の希望だ。

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第三者が世界を救う

佐藤優(2015)『世界史の極意』NHK出版新書

宗教である以上、誰もが無意識であれナショナリズムを自らのうちに抱えている。その暴走を阻止するために、私たちは歴史には複数の見方があることを学ばなければいけないのです。(本書 p.163)

したがって、宗教的価値観を中心とした結びつきには、民族やナショナリズムを越えていくベクトルがあることが認識できます。(本書 p.221)

世界史の極意 (NHK出版新書 451)

佐藤優が今を生きるビジネスパーソンに歴史を分かりやすく教える本。外務省で勤務して自らがキリスト者である著者は、宗教や国際問題を語るにふさわしいプロ中のプロだ。

現代社会はグローバル化が行き着いた先として、一種の危機に瀕している。その危機とは、戦争の可能性だ。

ウクライナやイスラム国を見ても分かる通り、世界には戦争の種があちこちで見えるし、紛争は現在進行形で起こっている。おそらく、これからそう遠くない未来の間には世界大戦は発生しない。だけど世界のどこかで継続して紛争が起きている状態が続くと予想される。これからは戦争をさせない社会(世界)を作ることが鍵となってくる。本書はそのために必要な知識を授ける。

著者はまず第一章で世界全体の傾向を見て、そこから帝国主義と宗教問題に焦点を絞る。第二章で帝国主義的傾向が強くなること、第三章で宗教問題について語る。いずれにせよ問題は、世界を第三者の視点で見ることで解決に近づく。帝国には帝国と植民地の視点から、宗教には他宗教の視点から見ることで、全体を把握して解決のいとぐちの可能性を見出す。

世の中の問題は賢い人が一気に解決するのではない。一人ひとりの理解の深化で少しずつ解決へと近づくのだ。

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自由主義経済の行き着く先を語る

手嶋龍一・佐藤優(2014)『賢者の戦略 生き残るためのインテリジェンス』新潮社

金持ちたちの間には、「このままだと庶民のヤキモチによって叩き潰されてしまう」という危機感が芽生えてきます。そして「自らの富を自発的に分配しない限り生き残れない」という結論に達するわけです。(本書 p.254)

賢者の戦略 (新潮新書)

時流に乗った対談を扱うものの、慧眼から息の長い内容を語ることで有名な佐藤優の対談本だ。今回はNHKワシントン支局長をしていた手嶋龍一との対談、第三弾。

2014年に出ただけあって、当時話題になっていたイスラム国を中心とした中東情勢、それとウクライナを中心としたヨーロッパの情勢が語られる。どちらも佐藤が主戦場とするところだ。

国際情勢を横目に見つつ、一般庶民としてどう生き残るかを知るにはいい本だ。国際情勢はなにもエリートの仕事にだけ影響するものではない。原油価格の乱高下や政府の姿勢など、庶民の暮らしにもジワリジワリと効いてくる。だから先を読んで対策を立てることが大事になる。

そのためには、インテリジェンスの世界では梅の上といった普通の人に近い感覚を持った著者が書いた『CIA諜報員が駆使するテクニックはビジネスに応用できる』がオススメだと佐藤はいう。誰にでも実践できるテクニックが書いてあるからだと。

さて、肝心のタイトルのお話。自由主義経済が行き渡り、金持ちはますます富み、貧者はますます貧しくなる。格差が増えると階級間に軋轢が生じ、金持ちが狙われるようになる。だから金持ちは富を分配して恨みを買わないようにしないと生き残れないと悟る。現にビル・ゲイツが財団を作って奨学金を作ったりしている。歴史を振り返ると日本でも似たような例はある。東大の安田講堂も安田財閥から寄付された。歴史は繰り返す。一時の悲劇を伴いながら。


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世界と競った猛者に教わる情報分析

佐藤優(2014)『私の「情報分析術」超入門: 仕事に効く世界の捉え方』徳間書店

こういうときになるといつも顔を出してくるのが袴田茂樹新潟県立大学教授(青山学院大学名誉教授)だ。ちなみに筆者が徳間書店から上梓した『外務省主任分析官・佐田勇の告白-小説・北方領土交渉』には、赤間田繁樹メソジスト大学教授という妖怪教授が出てくる。赤間田教授は、あくまでも小説の架空の人物で、モデルとなる実在の学者はいないことをここで強調しておきたい。(本書 pp.111-112)

「情報のための情報」、「分析のための分析」に私は意義を認めない。(本書 p.233)

私の「情報分析術」超入門: 仕事に効く世界の捉え方 (一般書)

情報分析でて世界としのぎを削っていた佐藤優が教える、情報分析の手法。本書はまず講義篇で情報を分析する基礎体力の付け方を教え、実践篇でロシア、日本、中東を分析していく。

基礎体力として筆者が重視するのは広いアンテナ、語学、数学、歴史だ。広いアンテナは具体的には新聞各紙に目を通すなどしていろんな情報を仕入れ、色んな角度からの見方を仕入れること。その際には語学力も重要になってくる。その際に「ふくらし粉」が入っている場合もある。それを見抜くには数学(数字のトリックにダマされない)、歴史(過去の事実に学ぶ)を抑えておく必要がある。

講義篇もためになるが、本書で面白いのは実践篇だ。筆者がプロとして仕事をしていたロシアの分析に加え、日本、そしてイスラエルやイスラム圏など、幅広くかつ世界的に注目を集めている地域について分析する。一部に筆者独自の情報源による裏話もあるが、大半が誰もが手に入れられるような情報を分析した結果だ。公開情報を読み込むと見えてくる世界の奥深さに舌を巻く。

本書で一番面白いのは、具体的な人物名をあげてかなり激しい調子(ともすれば品のない言い方)で糾弾している箇所だろう。それでも筆者は争いを望まない性格なので抑えて書いているという。そこまでして指摘するのは、なにも個人的な恨みからではない。それらの人々は意識せずに日本を戦争へと導いているからだ。だから強い調子で警告を発している。筆者には国益が第一であるというブレない姿勢があるから、論戦に強い。その姿勢に、今後のグローバルな社会の中で大事にすべき中心軸が見える。

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上司に潰されない生き方のすすめ

佐藤優(2014)『「ズルさ」のすすめ』青春出版社

現代の先進国は自由平等や基本的人権が基本。しかし一方、厳しいビジネス社会の競争原理の中で、それぞれの職場においては軍隊的な上下関係がより先鋭化しているのです。(本書 p.203)

「ズルさ」のすすめ (青春新書インテリジェンス)

本書は『人に強くなる極意』の続編、発展編といえる。

組織の中で生きるしかない人々に、最小限のストレスで生き抜く方法を教える。外務省という大きな組織で生きてきた佐藤の言い分には説得力がある。

組織の中で長年生きていると、自分が使用者になれるかどうかが見えてくる。そして、大半の人がなれない。

ある程度の見切りがついたところで考えるべきは、いかに出世するかではなく、いかにストレスなく生き抜くかだ。組織は基本的に個人を搾取して利益を得る。そこでは何らかの無理が生じ、ストレスが出る。溜めすぎると「心のインフルエンザ」、うつ病になってしまう。

組織の力は強力だ。パワハラを内部告発しても、告発された側はのうのうと生き続け、告発した方は暫くの間をおいてから左遷されるといった記述は組織の本質をついている。佐藤でさえ放逐された強大な組織と闘うには、もう一つ別の世界を創ったほうがいいと提案する。宗教でもサークルでも何でもいい、もう一つの自分を見つけて、組織での人生を自分の人生の全てにしないことが大切だ。

半沢直樹シリーズがウケたり、こうした本が売れているのは、そんな生きづらい世情を反映している。生きづらい世の中になったと嘆くのではなく、生きやすい世の中に変えていく切り替え力が必要になってくる。

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明日からできる教養のつけ方

佐藤優(2014)『「知」の読書術』集英社インターナショナル

このように、現在の国際情勢を「帝国主義」という概念を用いて考察できる教養が、危機の時代には求められます。複雑な国際情勢も帝国主義という考え方を当てはめてみることで、立体的に理解できるようになるのです。(本書 pp.66-67)

「知」の読書術 (知のトレッキング叢書)

読書家としての側面もある佐藤優が自身の本の読み方を紹介している。自分の商売道具を紹介しているのだから大胆というしかない。

佐藤がこうした本を書くのは、現代に対する危機感からだろう。強い国が世界を席巻しつつある現代を理解するには、国家とナショナリズム(と民族)に関する知識が必要不可欠であると同時に、近代とは何かを知る必要がある。

近代以降成立した様々な国家を知ることで、民主主義の成立過程や革命の起こり方、独裁の発生が理解できる。佐藤は独裁と民主主義は両立するとして、現代の民主主義国家が独裁に移行しつつあることを指摘する。300人の議会を30人、3人にしても、結局選挙でえらばれる限りは民主主義だ。だから最終的には1人になっても民主主義と言える。独裁と矛盾しない。

本書はエリートを対象にしていない。独裁や民主主義の話は何も国家に限ったことではない。会社や学校といった身近な社会でも起こりうるのだ。だからこそ、強大な権力が吹き荒れる中で生き延びるために、知識が必要になる。電子書籍やネットの有効的な活用方法、語学の学び方を紹介して、教養共同体を作り個人と国家の間の中間共同体を太くしていこうというのが、佐藤のスタンスだ。

仲間がいると安心できる。ブラック企業や独裁政権などの大きな力には、安心できる仲間とともに戦うしかない。

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生きづらい世界を生き抜く知識のつけ方

池上彰・佐藤優(2014)『新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方』文藝春秋

池上 もう一つ、今イスラエルが最も恐れているのは、隣国ヨルダンの王制が崩壊することでしょう。(本書 p.150)

池上 韓国(前略)北朝鮮については、佐藤さんに教えてもらって、「なるほど」と思い、『ネナラ』(北朝鮮の朝鮮コンピューターセンターが運営しているポータルサイト)を定期的に見ています。
佐藤 北朝鮮は、必要な情報を日本向けに出してくるから、あれだけ読んでいたらいいのですよ。(本書 p.234)

新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (文春新書)

言わずと知れた解説の名人、池上彰と佐藤優の対談だ。二人ともスタンスやテレビに出る・出ないの違いはあっても、世の中の複雑な事情を解説し、多くの人たちに世界の見方を発信している。

まずは今の世界で起きていることを解説し、その理解のために必要な知識(背景事情)を説明する。まずは民族と宗教、宗教には拝金主義とナショナリズムも入る。その知識さえ得ておけば、ウクライナや中東問題、それに中国や北朝鮮の動向までも探れる。

興味深かったのはネットに対するスタンスだ。二人とも、ネットでは実社会よりも右寄りの意見が多数を占めているから、ネットだけだと世の中の動向を見間違うこと、だからこそ新聞やテレビといった編集権のあるメディアと公式ウェブサイトから情報収集し、考えることが大切になると述べている。だからこそ、毎朝出勤して執務室でネットの意見を参考にしていた中国の温家宝首相(当時)の例を引き合いに出し、中国の危険性を指摘する。中国では新聞やテレビによる世論調査が行われないからだ。ネットの一方的な意見を参考に、世論よりも強硬な態度に出る可能性が出てくる。

そんな生きづらい世の中を生き残るためには世界の情勢を知る必要がある。世界の情勢を知るためには知識を得るのが大事で、その知識を得る方法が、本書では紹介されている。新聞数紙を20分で読むなどなかなか真似できないことも多いが、少しずつ真似していけば間違いなく実力のつく方法だ。

新・戦争論と銘打ったのは第一次世界大戦から100年たった現代においても、戦争は身近な問題であり続けているからだろう。

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集団的自衛権の限定的な容認は戦争しない国への第一歩

佐藤優(2014)『佐藤優の10分で読む未来 キーワードで即理解 戦争の予兆編』講談社

新帝国主義の時代というのは、全面戦争はしない。でも、局地戦ぐらいはある。それでお互いに譲歩しながら力の均衡をつくるんです。(本書 p.168)

佐藤優の10分で読む未来 キーワードで即理解 戦争の予兆編

ラジオ番組「くにまるジャパン」とメールマガジン「インテリジェンスの教室」で披露している内容をまとめたものだ。こちらは前回紹介した『新帝国主義編』の続編にあたる。

姉妹書で世界が新帝国主義の時代に入ってきたことを指摘し、今後の流れとしては世界大戦は起きないけども、継続的に小さな戦争が続いていくようになるという見立てをする。

姉妹書よりも新しい話だからか、かなり面白く読める。たとえば、集団的自衛権の限定的な容認を閣議決定したのは、戦争ができる国にしたのでは決してない。公明党の動きにより、法律論から見ればこれまでよりも戦争のできない国になったのだ。

これまでの日本政府は国内法では集団的自衛権の行使でないとしながらも、国際法上は同権の行使という形で、いわば国内向けと国外向けに違う方便を使っていた。しかし今後は国内外で違う解釈をしないというルールになったのだ。だから、今後はその方便は使えない。だけど国連等で自衛隊を国外に出す場合も出てくるだろう。その場合、閣議決定に違反して出すことになる。

こんな見方は新聞では教えてくれない。まさに外務省に長年勤め、外交や国会を知り尽くした佐藤だからできる分析だ。

この話意外にも、クリミア編入でならず者だと思われているロシアが実は地域の実情にもっとも根ざした対応をしている。一方、米国はわからずに暴走し、ヨーロッパはその様子を静観している、という見立てもまさに腑に落ちる。しかも佐藤が使っているのは全てオープンソース、誰でもアクセスできるデータである。

世の中の重要な情報の9割以上は公開情報だと言われているが、本シリーズを読むとまさにそうだと実感できる。

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現代社会を前近代的思考で攻めるバチカン

佐藤優(2014)『佐藤優の10分で読む未来 キーワードで即理解 新帝国主義編』講談社

ラッツィンガー(枢機卿)が唱える「対話」路線は、相手を対等の立場であると認めて、新たな真理を追求するために行う真実の対話ではない。最終的に、カトリック教会の普遍性のなかにすべての人類を包摂するという目的を達成するための戦略的対話だ。(本書 p.123)

佐藤優の10分で読む未来 キーワードで即理解 新帝国主義編

ラジオ番組「くにまるジャパン」とメールマガジン「インテリジェンスの教室」で披露している内容をまとめたものだ。

話題は著者が専門の日露関係沖縄分離独立から総合知なき知識人まで、広範に渡る。

読み応えがあるのは佐藤の専門である日露関係とキリスト教の話だ。

特にキリスト教については一般の読者にその戦略を分かりやすく教えてくれる人が日本にはほとんどいない。佐藤のように自身もクリスチャンで教会史に詳しく、世界情勢と絡めて分析できる人は稀有な存在だ。

ローマ教皇が600年ぶりに生前退位をしたのは、カトリック教会にとって現代は600年前と同じぐらいの危機的状況だと見なしている。バチカンの枢機卿はローマ教皇とほぼ同じ保守派の人たちで占められている。だからラッツィンガー枢機卿が訴えかける「対話」はカトリック教会がこの危機的状況を乗り切るための戦略だと佐藤は分析する。引用でも書いたとおり、イスラム過激派や中国など、バチカンと相容れない巨大勢力の中に対話できる人を探し、彼らの中で分裂を起こす。そしてこちらになびいた側をカトリック教会側に引き入れて生き残りをかけようとしているのだ。

カトリック教会はプレモダン(前近代)的な考え方をする集団だからこそ、モダンやポストモダンの考えに縛られずに危機を突破する方法を考えることができる。限界にぶちあたっているモダンやポストモダンの考え方で対応しがちな近代国家の人々よりもその点、強い。歴史の蓄積とはこういうことをいうのだろう。

その他、外交官の裏話として森喜朗元首相とプーチン大統領が仲良くなった経緯も紹介されている。おもしろい。九州・沖縄サミットの前に北朝鮮に寄って遅れてきたプーチンの顔を立て、プーチンの国際デビューを助けたのが森喜朗だったという裏話が紹介されている。だから森は、いまでも首相特使として行っただけでクレムリンまで案内され、国家元首並みの時間をとって会談できるぐらいのパイプをもっているのだ。

いざというときに重要なのは、やはり人と人とのつながり、信頼であることを示すエピソードだ。


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