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現代社会を前近代的思考で攻めるバチカン

佐藤優(2014)『佐藤優の10分で読む未来 キーワードで即理解 新帝国主義編』講談社

ラッツィンガー(枢機卿)が唱える「対話」路線は、相手を対等の立場であると認めて、新たな真理を追求するために行う真実の対話ではない。最終的に、カトリック教会の普遍性のなかにすべての人類を包摂するという目的を達成するための戦略的対話だ。(本書 p.123)

佐藤優の10分で読む未来 キーワードで即理解 新帝国主義編

ラジオ番組「くにまるジャパン」とメールマガジン「インテリジェンスの教室」で披露している内容をまとめたものだ。

話題は著者が専門の日露関係沖縄分離独立から総合知なき知識人まで、広範に渡る。

読み応えがあるのは佐藤の専門である日露関係とキリスト教の話だ。

特にキリスト教については一般の読者にその戦略を分かりやすく教えてくれる人が日本にはほとんどいない。佐藤のように自身もクリスチャンで教会史に詳しく、世界情勢と絡めて分析できる人は稀有な存在だ。

ローマ教皇が600年ぶりに生前退位をしたのは、カトリック教会にとって現代は600年前と同じぐらいの危機的状況だと見なしている。バチカンの枢機卿はローマ教皇とほぼ同じ保守派の人たちで占められている。だからラッツィンガー枢機卿が訴えかける「対話」はカトリック教会がこの危機的状況を乗り切るための戦略だと佐藤は分析する。引用でも書いたとおり、イスラム過激派や中国など、バチカンと相容れない巨大勢力の中に対話できる人を探し、彼らの中で分裂を起こす。そしてこちらになびいた側をカトリック教会側に引き入れて生き残りをかけようとしているのだ。

カトリック教会はプレモダン(前近代)的な考え方をする集団だからこそ、モダンやポストモダンの考えに縛られずに危機を突破する方法を考えることができる。限界にぶちあたっているモダンやポストモダンの考え方で対応しがちな近代国家の人々よりもその点、強い。歴史の蓄積とはこういうことをいうのだろう。

その他、外交官の裏話として森喜朗元首相とプーチン大統領が仲良くなった経緯も紹介されている。おもしろい。九州・沖縄サミットの前に北朝鮮に寄って遅れてきたプーチンの顔を立て、プーチンの国際デビューを助けたのが森喜朗だったという裏話が紹介されている。だから森は、いまでも首相特使として行っただけでクレムリンまで案内され、国家元首並みの時間をとって会談できるぐらいのパイプをもっているのだ。

いざというときに重要なのは、やはり人と人とのつながり、信頼であることを示すエピソードだ。

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