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気候のいいカリフォルニアで農耕が誕生しなかった理由

ジャレド・ダイアモンド(2012)『銃・病原菌・鉄(上)1万3000年にわたる人類史の謎』草思社

なぜインカ人は、ヨーロッパ人が耐性をもたない疫病に対する免疫を持ち合わせるようにならなかったのか。なぜ、大海を航海できる船を建造するようにならなかったのか。(本書 pp.147-148)

文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

一時、一躍話題になった本書はやっぱり面白い。なぜこんなに面白いのか。それはおそらく以下の点を全て網羅しているからだろう。

  • 身近な疑問を出発点にしている
  • 歴史を俯瞰している
  • 誰もが知っている出来事を扱っている

そもそも歴史を俯瞰して描いた本はだいたいにして面白いのに、それが「人類」の、「1万3000年」に渡る「全地球的な規模」の話だと面白くなるに決まっている。わかっているけどできないことをやってのけたから著者はすごいのだ。なぜヨーロッパ人は世界を跳梁跋扈し、あちこちの先住民を奴隷にしたのか。これは著者がニューギニアであったヤリという青年との会話から着想した疑問である。その疑問を25年かけて解いた著者の努力と誠意に脱帽だ。

人類は他の動物達と同じく、おそらくは狩猟採集民として生きていた。だけどある段階から農耕民へと移り変わる。それは農耕する方が安定的な食料が手に入るから。という簡単な話ではない。確かに単位面積当たり収穫できるカロリーは高い。だけど当時は野生動物もいっぱいいた。動物たちが取れなくなったことと、栽培するに都合がいい植物種がいたから、メソポタミアで農耕が始まり、品種改良も始まった。

現に地球上でメソポタミアよりも農耕するに環境がいい東オーストラリア、チリ、カリフォルニアではすべての条件を満たしていないから農耕民は誕生しなかった。

たまたま誕生した農耕民が、政治機構を育て、世界各地へと散らばっていった。ヨーロッパ人の覇権は偶然得た所与の条件によるものだった。

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580人が東京駅で大乱闘を繰り広げた昭和の左翼運動

立花隆(1975)『中核VS革マル(下)』講談社

あらゆる権力の退廃は、思想・信仰の自由を踏みにじるところからはじまる。そして、権力による思想・信仰の自由の圧殺は、必ず革命思想・革命信仰の自由の圧殺からはじまる。それと同様に、あらゆる革命の退廃は、反革命思想・反革命信仰の自由の圧殺からはじまる。(本書 p.199)

中核VS革マル(下) (講談社文庫)

前回紹介したものの続きである。

大衆運動を大々的に行う中核派、一方で組織づくりをする革マル。中核派は活動家が逮捕されて次第に力を失うとともに、革マルが組織づくりを終えて力をつけていく。次第に革マルが優勢になっていく。角材から鉄パイプ、バールに塩酸と次第に暴力がエスカレートしていった。だかある時期から、また中核派が盛り返す。これは暴力の方法に両者の思想の違いが現れたためだ。

中核派は国家権力への武力対決という発想で軍事組織づくりを行った。「職業軍隊中央武装勢力プラス国民皆兵の発想にたっている」(本書 p.151)一方、革マル派国家権力に武装対決するために作った軍事組織ではない。特殊な党派闘争専用の組織だった。だから終盤において全党をあげて戦った中核派が盛り返してきたのだ。

激しい戦闘中には、もちろん「誤爆」もあった。1974年9月5日、中核派は赤坂見附駅で在日朝鮮人女性(21歳)の顔と頭を狙い撃ちし、二週間以上の重傷を負わせた。当初は知らぬ存ぜぬを通していたが、事件後6日経ってから、機関紙にお詫びの文章を出した。在日団体の猛抗議があったことを伺わせるエピソードだ。

冒頭のお話は1973年12月23日、芝公園で集会をして東京駅までデモをしてきた中核派500人を革マル派武装部隊80人が襲った。結果5名重傷2名重体となった。この他、地方から状況すべく集まった全学連中央委員会メンバーを中核派が名古屋駅で迎え撃つなど、激しい戦闘が行われていた。当時は一般乗客にも影響が出ていたらしい。今となってはすっかり埋もれている史実だ。

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過激派が乗った電車を切り離して全員逮捕した静岡県警

立花隆(1975)『中核VS革マル(上)』講談社

ともかく、人間の発明した概念の中で、正義という概念ほど恐ろしいものはない。(本書 p.29)

同一組織内での意見のくいちがいは、議論、説得、妥協によってなんとか調整をはかっていくことができるが、いったん意見のちがう者同士が組織を割ってしまうと、両者の意見の相違は、とめどなく広がっていってしまう。(本書 p.86)

中核VS革マル(上) (講談社文庫)

日本の左翼運動の中で大きな役割を果たしてきた中核と革マルに焦点を当て、両者の抗争の理由を書いたのが本書だ。まだまだ内ゲバ激しい頃に書かれていたため、結論が書かれていないところも生々しい。当時の人たちにとっても、なぜ彼らが(同じ左翼の中で)内ゲバを行い、殺人までするのか知られていなかった。

1956年、日本で左翼運動を行ってきた者にとって衝撃的な事件が起きた。スターリン批判とハンガリー暴動である。労働者の祖国であるソビエトで、世界の共産党を指導する立場にあったソビエト共産党。そこで最高指導者として崇められていたスターリンが批判された。さらに労働者の天国のはずの社会主義国家ハンガリーで暴動がおき、武力で鎮圧されてしまった。加えて日本共産党もこれまでの武装闘争路線から穏健な路線に改めた。これまで信じていたものがガラガラと崩れ去った。

一部の人たちが、スターリンに批判されたトロツキーを読もうということで、日本トロツキスト連盟を組織した。これが中核・革マルの源流である。

その後、第四インターナショナルへの加盟の可否や産業別労働者委員会を中心とするか、地区党組織を中心に据えるかといった方針の違いから中核派と革マルに分裂した。

当初、人数で圧倒していた中核派は大衆運動に参加し、運動が高揚するに連れてどんどんと力をつけていった。一方、革マル派は大衆運動に参加するのが目的ではなく、革命を起こして労働者の国を建設するのが目的だという信念から、組織づくりに重点をおき、大きな運動を起こさなかった。そのため、数の上で劣勢に立たされるわ、中核派からは権力(警察)とつるんでいるから逮捕されないのだ、などと言われた。こうして止める者がいないまま少しずつ両者の軋轢が深まり、最初は角材だったものが鉄パイプ、爆弾へと血で血を洗う抗争になっていった。

冒頭の話は1968年6月8日のこと。1万2千人の左翼が結集して伊東警察署などを襲撃した。この闘争に参加するため、中核派が乗っていた電車が車輌ごと切り離されて、全員逮捕された。日本にも、45年前にそんな時代があったのだ。

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世界と競った猛者に教わる情報分析

佐藤優(2014)『私の「情報分析術」超入門: 仕事に効く世界の捉え方』徳間書店

こういうときになるといつも顔を出してくるのが袴田茂樹新潟県立大学教授(青山学院大学名誉教授)だ。ちなみに筆者が徳間書店から上梓した『外務省主任分析官・佐田勇の告白-小説・北方領土交渉』には、赤間田繁樹メソジスト大学教授という妖怪教授が出てくる。赤間田教授は、あくまでも小説の架空の人物で、モデルとなる実在の学者はいないことをここで強調しておきたい。(本書 pp.111-112)

「情報のための情報」、「分析のための分析」に私は意義を認めない。(本書 p.233)

私の「情報分析術」超入門: 仕事に効く世界の捉え方 (一般書)

情報分析でて世界としのぎを削っていた佐藤優が教える、情報分析の手法。本書はまず講義篇で情報を分析する基礎体力の付け方を教え、実践篇でロシア、日本、中東を分析していく。

基礎体力として筆者が重視するのは広いアンテナ、語学、数学、歴史だ。広いアンテナは具体的には新聞各紙に目を通すなどしていろんな情報を仕入れ、色んな角度からの見方を仕入れること。その際には語学力も重要になってくる。その際に「ふくらし粉」が入っている場合もある。それを見抜くには数学(数字のトリックにダマされない)、歴史(過去の事実に学ぶ)を抑えておく必要がある。

講義篇もためになるが、本書で面白いのは実践篇だ。筆者がプロとして仕事をしていたロシアの分析に加え、日本、そしてイスラエルやイスラム圏など、幅広くかつ世界的に注目を集めている地域について分析する。一部に筆者独自の情報源による裏話もあるが、大半が誰もが手に入れられるような情報を分析した結果だ。公開情報を読み込むと見えてくる世界の奥深さに舌を巻く。

本書で一番面白いのは、具体的な人物名をあげてかなり激しい調子(ともすれば品のない言い方)で糾弾している箇所だろう。それでも筆者は争いを望まない性格なので抑えて書いているという。そこまでして指摘するのは、なにも個人的な恨みからではない。それらの人々は意識せずに日本を戦争へと導いているからだ。だから強い調子で警告を発している。筆者には国益が第一であるというブレない姿勢があるから、論戦に強い。その姿勢に、今後のグローバルな社会の中で大事にすべき中心軸が見える。

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上司に潰されない生き方のすすめ

佐藤優(2014)『「ズルさ」のすすめ』青春出版社

現代の先進国は自由平等や基本的人権が基本。しかし一方、厳しいビジネス社会の競争原理の中で、それぞれの職場においては軍隊的な上下関係がより先鋭化しているのです。(本書 p.203)

「ズルさ」のすすめ (青春新書インテリジェンス)

本書は『人に強くなる極意』の続編、発展編といえる。

組織の中で生きるしかない人々に、最小限のストレスで生き抜く方法を教える。外務省という大きな組織で生きてきた佐藤の言い分には説得力がある。

組織の中で長年生きていると、自分が使用者になれるかどうかが見えてくる。そして、大半の人がなれない。

ある程度の見切りがついたところで考えるべきは、いかに出世するかではなく、いかにストレスなく生き抜くかだ。組織は基本的に個人を搾取して利益を得る。そこでは何らかの無理が生じ、ストレスが出る。溜めすぎると「心のインフルエンザ」、うつ病になってしまう。

組織の力は強力だ。パワハラを内部告発しても、告発された側はのうのうと生き続け、告発した方は暫くの間をおいてから左遷されるといった記述は組織の本質をついている。佐藤でさえ放逐された強大な組織と闘うには、もう一つ別の世界を創ったほうがいいと提案する。宗教でもサークルでも何でもいい、もう一つの自分を見つけて、組織での人生を自分の人生の全てにしないことが大切だ。

半沢直樹シリーズがウケたり、こうした本が売れているのは、そんな生きづらい世情を反映している。生きづらい世の中になったと嘆くのではなく、生きやすい世の中に変えていく切り替え力が必要になってくる。

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儲けより社会のためを考えた明治の経営者

鹿島 茂(2013)『渋沢栄一 下 論語篇』平凡社

渋沢が子供や孫などを実業界に進ませたがったのは、一族郎党で財閥を形成するためではなかった。(中略)息子や孫たちには、あくまで、経済界に入って自助努力で出世することを望んでいたのである。渋沢の願いは、実業界に一人でも多くの有能な人材をスカウトして、日本経済というパイを大きくすることだったのである。(本書 p.506)

渋沢栄一 下 論語篇 (文春文庫)

上巻と合わせて、鹿島茂が十八年近くにわたって書き続けていたライフワーク、渋沢栄一の伝記の完結編だ。

渋沢は金儲けをしようと思えばいくらでも出来るような立場にいた。確かに金持ちにはなったが、自らのためではなく、社会のために使った。

その代表例として恵まれない孤児たちを育てる養育院の運営や、明らかに儲からないと思われる企業の経営に手を挙げるなど、火中の栗を拾うようなことをしている。どちらも民業で難しければ、当時は役所への転職も簡単だったし、渋沢程度の実績があれば政治家にもなれただろうに、そうはしなかった。あくまでも民間、実業界の立場を崩さなかった。

その裏にはやはり、フランスで見た民と官の平等な姿、若い時に受けた教養もなさそうな代官からの侮辱などがある。だからこそ、日本の実業界を強くすることで社会全体をよりよくしていこうという発想があった。まさにサン=シモン主義を地で行った。渋沢が自らを犠牲にしてまで民業を育てたお陰で、王子製紙や日本郵船など、いまも残る大企業が育った。渋沢がいたからこそ、今の日本の経済界があると言ってもいいだろう。国家全体を俯瞰してより良い方向に変えていこうとする視点は、明治の渋沢が持っていたのに、現代の経済人には見当たらない。

良書であるが難点も一つ。連載が長期間に及び、多方面にわたったせいか、上巻と比べるとトリビアルな話が多く、散漫な印象を受けた。


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北朝鮮のエリート学校、卒業できるのは4分の1

趙明哲 著/ 李愛俐娥 編訳(2012)『さらば愛しのピョンヤン 北朝鮮エリート亡命者の回想』平凡社

南山学校の生徒が軍を訪問すると、現地の司令官や将軍、軍人たちが出迎えてくれます。空軍司令部に行ったときは、有名な空軍司令官でのちに人民軍総参謀長になり、国防委員会副委員長にもなった呉克烈が出てきて、百名ほどの生徒一人ひとり握手してくれました。食事にも招待され、私の正面に金英日、その隣に呉克烈が座って、さあ食べようとしたときです。担任の先生が飛んできて、別に用意していたスプーンと箸を英日に差し出しました。彼らの健康や衛生にそれほど神経を使っていたのです。(本書 pp.33-34)

いつだったか、最高人民会議代議員の資格で地方を訪れたとき、住民たちから「せめてパンツだけでも配給してください」と懇願されたと言って、父は私たち家族の前で泣き崩れました。(本書 p.199)

さらば愛しのピョンヤン―北朝鮮エリート亡命者の回想 (-)

著者は北朝鮮のエリート階層に属していた。父は政務院建設部部長(大臣級)、母は人民経済大学教授で自身も北朝鮮最高峰の大学である金日成総合大学の教授をしていた。そんな彼が中国留学を機に韓国に亡命し、日本や米国を見たあとに、日本にいる研究者に半生を語った。その語り書きが本書のベースになっている。

まず出身の南山学校という幹部の子弟専門の学校の特殊な環境に驚く。幹部以外の人たちとは一切隔離され、最高の設備、教員で揃えられた学校だ。上記引用で出てきた同級生の金英日は金正恩の異母兄弟で、金日成の孫、金正日の息子にあたる。彼らが外車に乗って護衛付きで通学していたなど、いかにも独裁者の子弟というエピソードが出てくる一方、プレッシャーもあって彼らはよく勉強し、いい成績を取っていたらしい。

ここまでは他の国でもあるかもしれない。北朝鮮のすごいところはもう一つある。大半の同級生とは卒業できないことだ。著者の同級生60名中、一緒に卒業できたのは十数名しかいない。他の子たちは親の粛清に伴い、良くて地方か収容所、悪くて悲しい結末になったのだろう。こんな、我々には過酷で無慈悲に見える環境も外部から隔絶された北朝鮮の人たちにとっては普通なのだ。「相手を知る」ことの難しさを知る。

その他にも就職や海外留学の際は四~十親等の職場や思想、過去など入念な調査がされたり、情勢によっては金英日など「傍流」になった人と関係者を責める集会が開かれる。日常的にも思想点検や生活学習が行われるし、職場の人同士で悪い点をあげつらったりもする。生きづらい社会だと思わせられる。一方で冒頭の通り大臣でも庶民の直訴に泣き崩れたり、家族のために沿岸部の宴席で出たカニを持って帰ったり(全部ダメになってしまった)、情の深さを感じるエピソードもある。

北朝鮮という閉鎖国家。厚いベールの下にも多様な人々の暮らしが息づいている。

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明日からできる教養のつけ方

佐藤優(2014)『「知」の読書術』集英社インターナショナル

このように、現在の国際情勢を「帝国主義」という概念を用いて考察できる教養が、危機の時代には求められます。複雑な国際情勢も帝国主義という考え方を当てはめてみることで、立体的に理解できるようになるのです。(本書 pp.66-67)

「知」の読書術 (知のトレッキング叢書)

読書家としての側面もある佐藤優が自身の本の読み方を紹介している。自分の商売道具を紹介しているのだから大胆というしかない。

佐藤がこうした本を書くのは、現代に対する危機感からだろう。強い国が世界を席巻しつつある現代を理解するには、国家とナショナリズム(と民族)に関する知識が必要不可欠であると同時に、近代とは何かを知る必要がある。

近代以降成立した様々な国家を知ることで、民主主義の成立過程や革命の起こり方、独裁の発生が理解できる。佐藤は独裁と民主主義は両立するとして、現代の民主主義国家が独裁に移行しつつあることを指摘する。300人の議会を30人、3人にしても、結局選挙でえらばれる限りは民主主義だ。だから最終的には1人になっても民主主義と言える。独裁と矛盾しない。

本書はエリートを対象にしていない。独裁や民主主義の話は何も国家に限ったことではない。会社や学校といった身近な社会でも起こりうるのだ。だからこそ、強大な権力が吹き荒れる中で生き延びるために、知識が必要になる。電子書籍やネットの有効的な活用方法、語学の学び方を紹介して、教養共同体を作り個人と国家の間の中間共同体を太くしていこうというのが、佐藤のスタンスだ。

仲間がいると安心できる。ブラック企業や独裁政権などの大きな力には、安心できる仲間とともに戦うしかない。

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生きづらい世界を生き抜く知識のつけ方

池上彰・佐藤優(2014)『新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方』文藝春秋

池上 もう一つ、今イスラエルが最も恐れているのは、隣国ヨルダンの王制が崩壊することでしょう。(本書 p.150)

池上 韓国(前略)北朝鮮については、佐藤さんに教えてもらって、「なるほど」と思い、『ネナラ』(北朝鮮の朝鮮コンピューターセンターが運営しているポータルサイト)を定期的に見ています。
佐藤 北朝鮮は、必要な情報を日本向けに出してくるから、あれだけ読んでいたらいいのですよ。(本書 p.234)

新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (文春新書)

言わずと知れた解説の名人、池上彰と佐藤優の対談だ。二人ともスタンスやテレビに出る・出ないの違いはあっても、世の中の複雑な事情を解説し、多くの人たちに世界の見方を発信している。

まずは今の世界で起きていることを解説し、その理解のために必要な知識(背景事情)を説明する。まずは民族と宗教、宗教には拝金主義とナショナリズムも入る。その知識さえ得ておけば、ウクライナや中東問題、それに中国や北朝鮮の動向までも探れる。

興味深かったのはネットに対するスタンスだ。二人とも、ネットでは実社会よりも右寄りの意見が多数を占めているから、ネットだけだと世の中の動向を見間違うこと、だからこそ新聞やテレビといった編集権のあるメディアと公式ウェブサイトから情報収集し、考えることが大切になると述べている。だからこそ、毎朝出勤して執務室でネットの意見を参考にしていた中国の温家宝首相(当時)の例を引き合いに出し、中国の危険性を指摘する。中国では新聞やテレビによる世論調査が行われないからだ。ネットの一方的な意見を参考に、世論よりも強硬な態度に出る可能性が出てくる。

そんな生きづらい世の中を生き残るためには世界の情勢を知る必要がある。世界の情勢を知るためには知識を得るのが大事で、その知識を得る方法が、本書では紹介されている。新聞数紙を20分で読むなどなかなか真似できないことも多いが、少しずつ真似していけば間違いなく実力のつく方法だ。

新・戦争論と銘打ったのは第一次世界大戦から100年たった現代においても、戦争は身近な問題であり続けているからだろう。

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集団的自衛権の限定的な容認は戦争しない国への第一歩

佐藤優(2014)『佐藤優の10分で読む未来 キーワードで即理解 戦争の予兆編』講談社

新帝国主義の時代というのは、全面戦争はしない。でも、局地戦ぐらいはある。それでお互いに譲歩しながら力の均衡をつくるんです。(本書 p.168)

佐藤優の10分で読む未来 キーワードで即理解 戦争の予兆編

ラジオ番組「くにまるジャパン」とメールマガジン「インテリジェンスの教室」で披露している内容をまとめたものだ。こちらは前回紹介した『新帝国主義編』の続編にあたる。

姉妹書で世界が新帝国主義の時代に入ってきたことを指摘し、今後の流れとしては世界大戦は起きないけども、継続的に小さな戦争が続いていくようになるという見立てをする。

姉妹書よりも新しい話だからか、かなり面白く読める。たとえば、集団的自衛権の限定的な容認を閣議決定したのは、戦争ができる国にしたのでは決してない。公明党の動きにより、法律論から見ればこれまでよりも戦争のできない国になったのだ。

これまでの日本政府は国内法では集団的自衛権の行使でないとしながらも、国際法上は同権の行使という形で、いわば国内向けと国外向けに違う方便を使っていた。しかし今後は国内外で違う解釈をしないというルールになったのだ。だから、今後はその方便は使えない。だけど国連等で自衛隊を国外に出す場合も出てくるだろう。その場合、閣議決定に違反して出すことになる。

こんな見方は新聞では教えてくれない。まさに外務省に長年勤め、外交や国会を知り尽くした佐藤だからできる分析だ。

この話意外にも、クリミア編入でならず者だと思われているロシアが実は地域の実情にもっとも根ざした対応をしている。一方、米国はわからずに暴走し、ヨーロッパはその様子を静観している、という見立てもまさに腑に落ちる。しかも佐藤が使っているのは全てオープンソース、誰でもアクセスできるデータである。

世の中の重要な情報の9割以上は公開情報だと言われているが、本シリーズを読むとまさにそうだと実感できる。


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