江沢民国家主席の司令でアメリカ大統領選に献金していたFBIのスパイ


デイヴィッド・ワイズ 著 石川 京子 訳(2012)『中国スパイ秘録 米中情報戦の真実』原書房

捜査局の電子機器技術者たちは今なお非公開の超高性能技術を用いてる領事館の盗聴に成功した。(本書 p.31)

荷物を回収し、中を開けて調べ、彼に気づかれないように中身を元通りに戻すのに必要な時間、ダレスで飛行機を遅らせた。(本書 p.279)

中国の恐るべき諜報活動が明らかにされるノンフィクションです。

パーラーメイドと呼ばれた中国系アメリカ人のカトリーナ・レオンはFBIのスパイとして中国側にある程度の情報を流し、逆に中国側から機密情報を取る仕事をしていました。その間、FBIの担当官だったビル・クリーブランドとJ・J・スミスとは不倫関係を結びます。レオンはJ・Jが家に来ている間、彼のバッグから書類を抜き出してコピーし、中国側に流していました。二重スパイだったのです。功績が認められ、中国に行くと江沢民国家主席を始めとする国家主席、国家安全部長(諜報組織のトップ)と面会をするようになります。逆に中国側からは大統領の選挙キャンペーン時、共和党のパパブッシュに献金を通じた応援を依頼されています。もちろん、お金は中国政府持ち。その頃から、アメリカの大統領選には外国政府の陰がちらついていました。

中国のスパイは中国系アメリカ人のみならず、脇の甘いアメリカ人を使ってあちこちに浸透しています。特に90年代までの中国はロスアラモス研究所やリバモア研究所で核兵器の技術開発をしている科学者から情報を盗み、自国の核兵器開発費を抑えることに成功したようです。

一方のFBIもむざむざ見過ごしてはいません。裁判所の許可を得て容疑者の家には盗聴器とビデオカメラをセットして監視します。また、中国の政府専用機(中国国際航空のB747)にも盗聴器を仕掛けます。いい作戦に思えましたが、盗聴器が仕掛けられることを予想していた中国政府が調査し、最新の盗聴器が中国側の手に渡ってしまいました。

著者はニューヨーク・ヘラルド・トリビューンの記者で、本書のために150人以上から500回以上のインタビューを重ねました。その中には諜報活動を行った者やFBIまで、多岐にわたります。当時はまだインターネット上のやり取りが少なかった時代です。当時、まだまだ発展した大国とは言えなかった中国とアメリカの間で、このようなスパイ合戦が繰り広げられていたのです。今ではもっと凄絶なやり取りになっていることが予想されます。ただ、実情が明らかになる日は当分来ないかもしれません。

本書の冒頭にはカトリーナ・レオンとJ・Jが二人揃っている写真が掲載されています。ワシントン・ポストに撮られたものです。なんと厚顔無恥にもまあ、と思えます。



子供の才能を発掘するしたたかなアメリカ


ダットン, ジュディ著/横山啓明 訳(2012)『理系の子-高校生科学オリンピックの青春』文藝春秋

ブルースの病気とキャトリンの事故の治療費がかさみ、ホーニグ夫妻には娘を大学に行かせる金はなかった。奨学金を勝ち取ることは、たんなる栄誉ではなかった。それがなければ、キャトリンは大学へ行けないのだ。(本書 p.140)

フィリップはハーヴァードに進学し、十万ドル以上の奨学金を手にし、数百万ドルの利益を生む会社を設立した。常軌を逸しているとしか思えなかったストライク家の向こう見ずな計画は、結局、成功をおさめたのだ。(本書 p.284)

アメリカらしい話である。

サイエンスフェスタを舞台にした、アメリカの高校生の成功譚が収められている。ある子は貧しい家庭に育ち、トレーラーハウスを温めるためにラジエターを改造した暖房器具を作った。ある子は聴覚障害者の女の子が健聴者と話すときにも秘密の話ができるように手話を読み取る手袋を作った。

彼ら高校生のうち、大半の子たちの研究動機は身の回りの困っている人を助けたい、または身近な謎を解き明かしたいという純粋な気持ちだ。じゃあ、所与の目的を達せばいいはずだ。なぜ彼らはサイエンスフェスタに出るのか。

そこに注目すると、若きアメリカンドリームと表裏一体の暗い影が見えてくる。

後がない子が多いのだ。病気の父親の入院費と治療費で借金を背負ってしまったり、少年院に入っているために将来への希望が持てなかったり。そんな少年少女に取って、唯一未来を切り開く可能性があるのはサイエンスフェスタでの賞金だ。優秀者には主催者からのみならず、協賛企業からの賞金や奨学金がもらえたり、政府や企業からの研究支援が得られたりする。サイエンスフェスタの結果で彼らの未来がかかっている。可能性あふれる未来か、たいした希望の持てない未来か。

科学を通じてアメリカ社会の両極端なところが映し出される。親が大富豪で、さらにその息子もサイエンスフェスタで6万ドル以上の賞金を稼いで起業するような成功者もいれば、奨学金を得ないと大学に行くという選択肢すらなくなる子までいる。高校生からそのようなシビアな状況に置かれるのは気の毒にすら思える。ただ、逆に考えれば、シビアな状況にも一縷の望みを与えるのがアメリカ社会の良さであるとも言える。

しかし、そうなると世間の役に立つ短いスパンの研究に重点が置かれるのも仕方ない。一方で科学はいま成果がでなくても、50年後、100年後にパラダイムシフトが起きても即対応できるような柔軟性を持たせるべく、広い基礎研究も必要となる。本書で取り上げられていたアメリカの事例が即役に立つものばかりだったのに比べ、巻末に付けられた日本代表の女の子は基礎研究を行っていた。この研究を選んだ日本側の審査員と本書の著者に、基礎研究を重視する日本の矜持を感じた。