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サントリー学芸賞 レビュー

したたかな中国人の間でよりしたたかに生きるムスリム

中西竜也(2013)『中華と対話するイスラーム 17-19世紀中国ムスリムの思想的営為』京都大学学術出版会

中国と言うイスラーム世界の辺境において、イスラーム世界の中核から比較的孤立した状況のもとで、自らの進行を実践せねばならない苦労を背負いこむこととなった。(本書 p.3)

明の中頃まではペルシア語もアラビア語に劣らぬ尊厳を保持していたが、明末あたりから再イスラーム化の動きに合わせ、アラビア語の威信が著しく高まったことで、アラビア語とペルシア語の間に大きな格の違いが生じたのである。(本書 p.352)

中にコラムや写真、イスラームのお祈り方法までパラパラ漫画で書いてあって、面白い体裁をとる本書は中国のイスラームの思想や彼らと漢民族をはじめとするマジョリティとの関わりについて焦点を当てたもので、15世紀後半から19世紀を対象としている。中国に入ったイスラームは、婚姻を繰り返すことで、見た目による違いはほとんどなくなっていった。そして周りは儒教や道教、仏教などが主で、イスラームはマイノリティのままだった。本場のイスラームにはありえないような圧倒的マイノリティという逆境の中で、イスラームは生き残るべくしなやかに生きた。あるときはスーフィズム(神秘主義)を朱子学のアナロジーとして本を書いたり、またある時は漢訳版は簡略版にするといった配慮だ。マジョリティから攻撃を受けそうな箇所はあえてあいまいに訳してお茶を濁し、ムスリムの間で読まれるものについてのみ、本来のいいたいことを書いた。その中では中国のことを「戦争の家」とまで言っている。

本書は確かに、マイノリティの側から見たヘゲモニーとの応酬と見ることもできるが、中国の多様な一側面の理解に役立つ。軋轢を抱えた中での統治という社会体制がここ最近できたものではないことが分かる。さらに「宗教は人民のアヘン」とまで言ってはばからない社会主義体制になってから、より一層しめつけが厳しくなったことが予想される中国イスラームを取り巻く環境の中において、彼らがどうしたたかに、しなやかに生きているのかが気になった。続編もぜひ読みたい。