佐藤 私が片岡先生とひじょうにうまくいったのは、「共同体」をしっかり作れたからだと思います。医療行為とはつまり、患者と医者の共同体を作ることです。だから最近よく使われる「患者様」という言い方は、共同体づくりを阻害する言葉だと思います。
本書 p.55
佐藤 大学病院勤務によっては若手医師で年収2~300万円、20年勤務していても4~500万円くらいというケースもあるのではないですか。
本書 p.158
片岡 個人病院の場合、院長が身銭を切ることがあるので、院長の実質年収が5~600万円ということもあるようです。
本書 p.164
本書は肥満腎症と闘病中の作家・佐藤優が主治医である片岡浩史医師との対談本です。佐藤優は若い時の無理がたたって肥満から腎臓病になったと理解しており、そのことを片岡医師に伝えます。片岡医師はその記憶力に圧倒されつつも専門家としての意見を述べ、二人でタッグを組んで病と闘っていきます。
現在の佐藤優の状況は最低でも週に3回、4時間の透析を受けている状態です。このままだと統計上の余命は8年ほどです。前立腺がんの手術をし、今は夫人からの腎移植手術を待っています。このような状況下で強靭な精神力を持って病と闘う姿は、同じ病で苦しんでいる人に勇気を与えるのではないでしょうか。
腎臓は一度線維化すると元に戻りません。残るは家族間の生体腎移植かドナー提供を受けるか人工透析です。片岡医師は「不摂生は自分の責任だから」と言って家族間の生体腎移植に乗り気でなかった佐藤をパターナリズム(父権的)に説き伏せます。知の巨人と言われ、おそらく医療の知識も相当程度以上に持っているであろう佐藤は、高度専門職である片岡医師の判断を尊重して同意します。最近ではネットで見た情報をうのみにする患者が増えているということですが、このような専門職に敬意を払う態度は見直されてもいいと思います。
本書では生活保護でも大学病院の治療が受けられる日本の医療体制のすばらしさが強調されると同時に、新自由主義が入り込んできて先はあまり暗くないこと、医師は死に勝てないので勝負としては負け続けであることなど、様々な話題を縦横無尽に語っています。今、病に苦しんでいなくても、いざという時のため、そして2000万人と言われる腎臓病患者の一人かもしれない自身のためにも読んでおくべき一冊です。