佐藤 (中略)日本は人口が多いので、GDPの総額ではまだ韓国の二・五倍くらいの力があります。ただし、一九六五年時点では、GDPはざっくり言って三十倍近く離れていたんですよ。三十倍が 二・五倍まで近づいてきたときに、三十倍離れていた当時の均衡戦は、成立しないのです。
本書 p.54
手嶋 (中略)「このままでは、会談は板門店に決まってしまう。安倍首相からぜひ巻き返しをしてもらいたい」、と、直接、日本側の高官に連絡してきたわけです。安倍首相も、米朝の余りに性急な接近には危惧の念を持っていたため、トランプ大統領を説き伏せ、結果的にシンガポールに決まったという経緯があります。
本書 p.171
本書は『独裁の宴 世界の歪みを読み解く』、『米中衝突-危機の日米同盟と朝鮮半島』に続く手嶋龍一と佐藤優によるインテリジェンスをテーマにした対談本です。インテリジェンスとはインフォメーションとは違い、情報を精査して絞り込まれたエッセンスを言います。外務省や軍、情報機関が取ってきたうち、政策判断に使われるような情報を言います。
本書のテーマは大きく分けて日韓関係と中東問題にあります。2018年の年末に発生した韓国海軍の軍艦による自衛隊機へのレーダー照射問題、徴用工への補償問題など、日韓関係は悪化の一途をたどっています。特に前者のレーダー照射問題は当初軍部がミスだと公表しかけたものを政府が止めたことが本書で明らかにされています。ただ、問題はそうした手続きの話ではありません。日韓基本条約締結時と比べて両国の国力に差がなくなってきたため、当時の基準で解決済みと言っても納得しない韓国側の心情を理解すべきだと対談で両者は説きます。
なぜここまで日韓関係を重視するのか? それはアメリカの同盟国であるという一点につきます。韓国は歴史的、地理的な経緯から中国と接近しやすい素地にあります。朝鮮戦争は現在も休戦状態ですが、トランプ政権下でアメリカが終結を試みた場合、在韓米軍は撤退します。中国は北朝鮮と韓国を引き寄せ、日本がアメリカと中国の経済、防衛圏の前線になります。
これは荒唐無稽は妄想ではありません。今やアメリカも世界の警察官ではなくなり、二方面作戦をする体力はありません。中東か東アジアであれば間違いなく中東を取ります。トランプ大統領の娘婿がユダヤ人であり、大統領にとって有力な支持層であるからです。中東情勢が悪化すると東アジアのバランスが崩れ、日本も経済や防衛の面で負担が大きくなります。
本書では安倍首相のイラン訪問でアメリカとイランの対立激化が緩和されたエピソードも明らかにされています。日本や東アジア、中東、世界の平和が微妙なところで成り立っていることを教えてくれる一冊です。