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現代史の最重要人物:トウ小平

エズラ.F・ヴォーゲル著、橋爪大三郎(聞き手)(2015)『トウ小平』講談社

指導者が、なるべく多くの人びとの意見を聞いて、決めるわけです。意見が正しいと思えば、そのようにやる。そうじゃないと、自分の判断で方向を決める。(本書 p.196)

全国の秩序を守るために、ときどきひとを犠牲にしなくちゃならない。というロジックの犠牲者が、天安門の学生である。そういう考えだと、私は思う。(本書 p.207)

 エズラ・ヴォーゲルが大著を記しました。それが『現代中国の父 トウ小平(上)』『現代中国の父 トウ小平(下)』です。今回はその大著を紹介する対談です。

対談が豪華です。エズラ・ヴォーゲルの相手は『はじめての構造主義 (講談社現代新書)』でも知られている橋爪大三郎です。

鄧小平は第二世代の指導者といわれます。第一世代が建国の父、毛沢東。第二世代が鄧小平です。そして第三世代から江沢民、胡錦濤、習近平と続いて行きます。ただ、中国の国家主席は毛沢東と江沢民の間に劉少奇、李先念、楊尚昆がいます。また、中国共産党中央委員会主席も毛沢東、華国鋒、胡耀邦の3人がいます。鄧小平はどちらにも就いていません。

ではなぜ鄧小平が第二世代と呼ばれるのでしょう?

まず、中国では共産党がすべてを支配します。まず国があり、いずれかの党が運営するのではなく、まず党があり、党が国を運営します。そのため、党が何よりも優先され、党のトップ(総書記)が国のトップ(国務院総理)を指導します。

当時、党主席だった華国鋒は鄧小平によって権限を剥奪されてました。そして中央書記処総書記の職を設置します。中央委員会主席が党の最高指導者、中央書記処総書記が党の日常業務の最高責任者という運営にしました。そして鄧小平の信頼厚い胡耀邦が就任、再び党首と党の日常業務の最高責任者が分離する体制となります。

追い詰められた華国鋒は党書記を辞任、代わりに胡耀邦が党主席に就任、鄧小平は党中央軍事委員会主席に就任して人民解放軍(これまた国ではなく党の軍隊)のトップに就きます。一方で国の方には鄧小平の信頼厚い趙紫陽が国務院総理(首相)に就任していました。こうして鄧小平体制を確立しました。

現在は党総書記、国家主席、軍事委員会主席の三つの役職を担うと中国の名実ともにトップになったといわれます。