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レビュー

拉致事件は世界的な作戦の一部だった?

手嶋龍一(2007)『ウルトラ・ダラー』新潮社

「K・Tさんよ、そこのけじめをつけていただくために、こうして写真をお送りした。(中略)」
「俺の名はクンじゃない、イサオだ。呼ぶならI・Tといいたまえ」
(本書 p.327)

前回紹介した『知の武装』で手嶋龍一本人が産経新聞を引用する形で、瀧澤勲 外務省アジア・大洋州局長のモデルが田中均 元局長とされたと言っている(本人は誰をモデルにもしていない、と述べている)。瀧澤が外交交渉の記録を残していないことと、田中が安倍首相にfacebook上で名指しで「交渉の公式記録を残さなかった」と指摘されたことは偶然にすぎる一致だし、均をキンと呼ぶ人もいた(石原慎太郎など)ことから、K・Tさんと呼ばれていたのも事実じゃないかと思えてくる。

ともあれ、手嶋龍一との対談本でも、本書の解説でも佐藤優が絶賛する通り、本書はインテリジェンス小説(近未来に起こりうる事象を扱った小説)として面白く、読み応えのある出来になっている。

本書を読むと、一部の拉致事件の真相がうっすらと見えてくる。それは北朝鮮を介して、東アジアにおけるアメリカの影響力低下を狙う作戦の一部としての拉致事件という姿だ。国際的な事件は他の事件と結び付けて見ると、真相が見える場合もある。本書はその一つの可能性を示している。