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レビュー

ジブリ映画を超えたジブリ漫画

宮崎駿(2003)『風の谷のナウシカ』徳間書店

「何がおころうとしているのか判らない…… でも何かとてつもないおそろしいことがどこかで始まっている あれはその最初のきざしだわ」(2巻 p.86)

未来の地球では腐海と呼ばれる人の住めない、しかし蟲と呼ばれる生物だけが住める森が増えていく。同時に腐海に領土を取られた人は生存可能な土地をめぐる争いをする。その争いの中でも腐海は増え続け、蟲の王である王蟲に、腐海が増え続けた結末を教えてもらったナウシカは、最悪の事態を避けるために立ち上がる。風の谷の仲間とともに…。

立花隆と佐藤優の対談本で言及されていた中で唯一絶賛されていたアニメ(のオリジナルストーリー)。映画化されたのはごく一部(2巻の前半まで)で、漫画の方が数倍スゴイ。立花が宮崎駿に全てを映画化しないのか、と聞いたところ、あれはできないと言われたのだとか。作者ですらあきらめてしまうほどのスケールが7巻に詰まっている。

ストーリーの展開が割と早く、先へ先へと読ませる。簡潔なのだ。逆に言うと要点しか描かれていない。だからストーリーが進むとともに、読者が細かな事情を考えなければならない。それが7冊続く。まるで濃厚なスープを大鍋で飲んでいるような感覚になる。

映画では人間と腐海をはじめとする自然との対立のようにも読めるが、そうではない。人間が周囲の環境とどう向き合うかというローカルな話を超えて、人間を含んた環境は、さらなる大きな環境とどうかかわるかという話につながっていく。人間対自然の古い対立を超えた近代的な問いこそが、ナウシカが私たちに投げかけるメッセージだ。