小林朋道(2015)『ヒトの脳にはクセがある 動物行動学的人間論』新潮社
「人間はさまざまな測定機器や、数式を含めた理論を作り上げ、生身では知覚できないような物質の構造や宇宙の歴史などについて理解を深めてきたが、結局のところ、実在(真の外界)に到達できるのか、実在を真に理解できるのか?」
本書 p.36
動物行動学の視点から言えば、無理である。
「相対性理論」も「量子力学理論」も、われわれの外界の事物・事象という同一の”象”の断片を正しく反映する把握を行っているのである。
本書 p.174
本書は動物行動学者の著者が人間の脳のクセについて書いた本です。人間の脳のクセは興味深く、特定の画像の中からヘビを含む画像を見つけるスピードが顕著に早いのは世界的にみられます。また、現代人にも特定恐怖症といわれる精神症があり、「猛獣」「ヘビ」「クモ」「高所」「水流」「落雷」「閉所」に対する恐怖症が先進国、発展途上国で共通してみられます。
本書ではそうしたクセは狩猟採集時代の名残と言います。しかし、本当にそうなのでしょうか。ヒトの場合、狩猟採集のあとに農耕や漁撈を生業としてきた人々も多くいるはずです。上記の特定恐怖症は何も狩猟採集に限りません。生業が濃厚や漁撈に移っても、それらが生命の危機と直結するものだったことは容易に想像できます。
一方で、現代の主な死因である刃物や拳銃、自動車に対する特定恐怖症が見られないというのは興味深い指摘です。数万年たてばまた数万年間の生き方に適応した特定恐怖症が出てくるのかもしれません。
本書で述べられている、「真の外界」や「意識」などは、オオカミがオーロラを見ても理解できなかったり、月へ到達するロケットを作れないのと同様、人間の脳には理解できないと述べているのはなるほどと納得させられました。