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理不尽な世の中を生きる最強の働き方

だから多少嫌味をいわれようが嫌だろうが、会社を辞めてはいけない。問題は構造的で、個人の自助努力によって解決できる域を超えている。

本書 pp.185-186

勤務評定が厳しくなる時代において、自分自身だけで問題を抱えていると、メンタル面でやられてしまう。そうしないようにするために、一番重要なのは、話ができる友だち、できればななめ上のところで、信頼できる友だちを持っていることだ。

本書 p.146

元外務官僚で作家の佐藤優が現代日本での働き方を伝授します。派遣切りや外国人労働者の受け入れなど、日本人にとっては展望が見えづらい、給料は上がらないのに税金は上がる、年金はあてにできないし将来の貯蓄も必要…と、生きづらい世の中になってきました。こんな世の中を生き抜く方法を佐藤優が教えます。

本書の根底にあるのは、マルクスの『資本論』で展開された考え方です。マルクス経済学なんて、今や経済学部でも教えなくなった古臭い理論、と思われがちですが、そうではありません。社会の真理を捉えた本なので、資本主義が続く限り、現代でもその考え方は有効です。元に、本書を読むと腑に落ちるところが多いにあります。

マルクスが述べたことは以下のとおりです。

  1. サラリーパーソンが大金持ちになることはない
  2. 給料は提供した労働力以下しかもらえない
  3. 給料は労働に対しても余暇に対しても払われる

右肩下がりになり、勤務環境が厳しくなることが予想されるこれからの日本では、サラリーパーソンはまず大金持ちになれません。それどころか非正規雇用や介護離職の増加などで安定した収入が得られる人が減っていきます。そんな世の中で生き抜くためには以下のことが必要だと説きます。

  • 会社は辞めない
  • 周りの人をたいせつにする
  • 仕事以外の楽しみも見つける

今の世の中、正社員を辞めてしまうと再就職は簡単ではありません。引用にあるように、多少嫌味を言われてもしがみついたほうが得策です。非正規の人には伴侶を見つけることを勧めます。また、働き続けるには心身の健康が重要になります。自分ひとりで抱え込んでいたらメンタルを病むので、直属の上司や部下以外のつながりを持っておくことが重要になります。仕事もいつか定年が来ます。孤独な老後を迎えないために、仕事以外の場で楽しみを見つけるのも重要になります。

いずれもある程度の努力が必要です。仕事に打ち込みすぎても億万長者にはなれません。ましてや、経済状況はますます悪くなります。これからは仕事はそこそこしつつ、自分の人生を充実させることに軸足を移したほうがいい時代なのかもしれません。

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達人が教える最強の情報収集法

池上彰、佐藤優(2016)『僕らが毎日やっている最強の読み方』東洋経済新報社

『朝日新聞』の論調が嫌いな人も、「朝日新聞デジタル」に目を通す習慣をつけたほうがいいでしょう(本書 p.71)

いまの時代にインプットの時間を確保するには、あえて「ネット断ち」や「スマホ断ち」をする必要があるかもしれません。(本書 p.173)

僕らが毎日やっている最強の読み方;新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意

『新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方』(文春新書)『大世界史 現代を生きぬく最強の教科書』(文春新書)『新・リーダー論大格差時代のインテリジェンス』(文春新書)に続く二人の共著です。これまでと同様、対談形式になっています。

二人は新聞、雑誌、ネット、書籍の順番に付き合い方、情報収集の仕方を語っていきます。最近の新聞は国際面が貧弱になってきていることや、社説以外にも独自色を出して報道をしていることから、二人とも二紙以上購読することを薦めています。佐藤氏が朝日新聞の電子版購読を薦めているのは、政治エリートに影響力を持っている新聞だからです。そうした、新聞を読んでいるだけでは分かり得ない情報を教えてもらえるのが書籍の強みです。

また、二人とも意外なことに雑誌をよく読んでいます。「読書人階級のための娯楽」(佐藤)というように、あくまでも娯楽として付き合っていくべきとのスタンスは二人で共通するものの、やはり時代の流れやその取材力は侮れません。

ネットについては二人ともまだ付き合い方を模索している感じが見て取れます。ネットは玉石混淆ですが、明らかに石が多いので、二人とも有料の会員制サイトを使って情報収集しています。佐藤氏に至っては「ネットサーフィンの誘惑」を断ち切る必要があると断言しているあたり、私と変わらない誘惑に負けがちな精神の持ち主であることが見て取れて安心します。(さらにいうと、私は誘惑に負けてしまう方ですが。)

月90本の締め切りを抱える佐藤氏と月18本の締め切りを抱える池上氏の、新聞、雑誌、ネット、本との付き合い方は勉強になります。

冒頭に二人の仕事部屋が16ページ、カラーで紹介されています。大学教員の池上氏より、佐藤氏の方が知的な感じがするのは、硬派な本が多いからでしょうか。日本に数セットしかないブハーリン編纂レーニン全集があるなど、書痴的な側面が見えるからかもしれません。