丸山圭三郎(2012[2008])『言葉とは何か』筑摩書房
ところで、道具・手段としての外国語学習の必要性は認めるにしても、もし言葉を学ぶ意義がそんな実用性のみに限られるとしたら、いささか寂しい気がします。(本書 p.14)
言語学の入門書といえばこれで決まり。といっても過言ではないほどの名著です。丸山圭三郎は近代言語学の始祖といわれているフェルディナン・ド・ソシュールの研究者で、一流の言語学者でした。そんな彼が書いた言語学についての入門書です。数多く出ている入門書の中でも、手に入れやすさ、簡明な記述、とっつきやすさからいって、一番のオススメです。
言語を音のレベルから文法、談話レベルまで分けて説明し、その上でソシュールの打ち出した重要な概念であるラング・パロール・ランガージュおよびシニフィアンとシニフィエについても説明しています。また、近代言語学の流れを簡単に説明してあるところや、言語は名付けの総体ではなく、世界の分節の表現である、という見方を紹介しているあたり、入門書とはいえども侮れません。
丸山は最後に、言語の可能性について紹介しています。世間一般に認識されていること(ラング)があるからこそ、それを転倒させる形で新たな表現の可能性が生まれるとしています。例えば、私達は家庭用品だという前提でミシンという単語を使います。しかし詩人の手にかかると、それが手術台の上でこうもり傘と美しい出会いを繰り広げたりしてしまう。そこに、私たちは日常生活の話の中にある枠組みが通用しないことを見出します。理解できそうでできない、掴めそうで掴めない、新たな想像力喚起の可能性を丸山は指摘しています。
短いけれども、スリリングな一冊です。