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沖縄語、まずはこれから

西岡 敏、仲原 穣『沖縄語の入門(CD付改訂版)』白水社

A:アレー ヌー ヤガ?
(あれは何ですか?)
B:アヌ フシヌ ナーヤ ニヌファブシ ヤサ.
(あの星の名は北極星(子の方星)だよ。)

本書 p.10

人生には沖縄語を学びたくなる時期があります。沖縄語または島くとぅばと呼ばれる言語は日本語と似ているため、非常に学びやすいです。

沖縄語には係り結びがあったり、豚のことをワ(ゐ(猪))というなど、昔の日本語と似ている点があります。現代語で係り結びが使われているなんて、とても興奮しますね。

本書では沖縄語を言語学的、語学的な側面から説明するだけでなく、牧志公設市場は1階で買った魚を2階でさばいて調理してくれるシステムであることや、沖縄での豚やヤギの大切さなど、沖縄の人々の日々の暮らしにかかわるあれこれも教えてくれます。

最後のほうには昔話や民謡、おもろそうしまで入っています。沖縄語や沖縄を知るためにはたいへんお得な一冊です。

近年でも方言ニュースは更新されており、この本を終えたら方言ニュースを聞くと少しずつ分かり始めてきます。

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嫌い。だけど、好き。

吉岡乾(2019)『現地嫌いなフォール度言語学者、かく語りき。』創元社

それでも調査へは行く。仕事だもの。わりと頻繁に、協力者を非協力者と呼びたくなるくらいに協力が得られない時期もあったりするが、彼らには彼らの日常生活があるので、咎めたりはすまい。

本書 pp.21-22

道中で頻繁に悪ガキどもが「外国人は谷から出ていけ」と言いながら透析してくるのを耐えつつ、二時間半掛けてペディシャルへ向かう。

本書 p.279

フィールドワーク(野外調査)ほど面倒なものはありません。現地の人から情報を得ないといけないし、そんな暇な人はそうそういないし、いたところで信頼関係を築くのに時間がかかります。その苦労話をつらつらと書いた本が本書です。

著者が調べているのはパキスタンで話されているブルシャスキー語・ドマーキ語・カティ語・カラーシャ語・コワール語・シナー語・カシミーリー語・パシトー語で、いずれもほとんどの日本人が聴いたことのない言語です。

具体的には風の谷のナウシカの舞台となったのでは、とうわさされているフンザ谷を含むパキスタン北部で話されている言語です。

大学でウルドゥー語を専攻した著者は紆余曲折を経て、パキスタンのマイナー言語を調べて記述する専門家になりました。しかし、調査地へ行く苦労が生半可ではありません。3000m以上の高地を通るバスで片道1日以上かけて出かけた村で、なかなかインフォーマントに出会えない、怪しい老婆に油の浮いたミルクティーを勧められる、大家と聞いていた言語学者に会いに行くも事前にアポまで取ったにも関わらず会えずじまいでアラビア海のほとりをとぼとぼ歩く。大阪で就職の面接の後も失敗したと思って岐阜の商店街をとぼとぼ歩く。苦労は多いです。でもなぜか、読み進めてしまう本です。

言語学者によるフィールドワークに関する本はかなり少なく、貴重な記録だと思います。私の知っている範囲では『アイヌ語をフィールドワークする―ことばを訪ねて』以来ではないでしょうか。こちらもアイヌの儀式に参加したりなど、興味深い体験談がいろいろと書かれている本です。