カテゴリー
中国朝鮮ウォッチ 北朝鮮

2019年1月の金正恩訪中記念映画解説

2019年1月7日から10日にかけて、北朝鮮の金正恩 国務委員会委員長が中国を訪問、習近平 国家主席と会談しました。その訪中のようすが北朝鮮国営メディアである朝鮮中央放送で流れました。以下ではその詳細を見ていきたいと思います。

1月7日午後

00:04
タイトル「朝鮮労働党委員長であらせられ朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長であらせられるわが党と国家、軍隊の最高領導者金正恩同志におかれては中華人民共和国を訪問なさった 主体108(2019).1.7-10」
00:39
左に見える赤いビル、広いプラットフォームから、出発駅はおそらく龍城(リョンソン)駅です。
00:47
金永南首相(右端)をはじめとする幹部たちがお出迎えのために待機しています。午後とはいえ、寒い中、大変です。後ろで脚立に乗って望遠レンズを構えているカメラマンが女性です。北朝鮮公式メディアのカメラマンはたいてい男性なので珍しいです。
01:15
金正恩・李雪主夫妻が駅に入ってきて、見送りの幹部たちに挨拶をします。
02:40
幹部たちが深々とお辞儀をする中、専用列車の開け放った扉から手を振る将軍様。照明がすごい。
02:47
手を振る将軍様の右後ろにいるのが妹の金与正という報道もありました。
03:00
最後尾あたりにある車両、妙にゴツゴツしています。通信機器が載っているのでしょうか。今回の訪問には李洙墉、金英哲、朴泰成、李容浩、努光鉄、李一煥(部長)、崔東明(部長)を始めとする人々が同行しました。

1月8日

04:13
丹東駅に到着、宋濤 中国共産党対外連絡部長の出迎えを受けます。左端の花束を金正恩から受け取るために待機している金与正も見えます。
04:43
列車内で会談をします。いわく「和気あいあいとした雰囲気」で行われたそうです。
06:23
現地時間1月8日午前10時半、北京に到着しました。映像では午前11時頃到着したようです。
06:40
北京駅で王滬寧 中国共産党中央政治局委員と蔡奇 北京市党委員会書記が出迎えます。その後、天安門の前にある長安街を通って釣魚台迎賓館に移動します。
09:10
宿泊先となる釣魚台迎賓館で王滬寧 中国共産党中央政治局委員と蔡奇 北京市党委員会書記、宋濤 中国共産党対外連絡部長が出迎えます。前二者は北京駅で、宋濤は未明に丹東駅で出迎えています。どうやって先回りしたんでしょう? 丹東からは高速鉄道や飛行機を使えば先回りできますが。
10:27
8日午後5時半、習近平・彭麗媛が人民大会堂にて金正恩・李雪主夫妻を出迎えます。
12:17
金正恩と習近平がそれぞれの政権幹部たちに挨拶をします。習近平は他の幹部とは片手で握手しましたが、金与正とだけは両手で握手をしています。重要人物であることが伺えます。
13:46
儀仗隊の閲兵式が人民大会堂の中で行われました。冒頭に国旗に一礼した習近平、金正恩の両国指導者。
15:42
首脳会談の様子です。北朝鮮側は金正恩、李洙墉、金英哲、李容浩が、中国側は習近平、王滬寧、丁薛祥、楊潔チ、王毅、宋濤が参加しました。
23:28
習近平の主催で歓迎式典が開催されました。場所は人民大会堂です。
34:25
習近平、金正恩が挨拶のスピーチを行い、出し物がありました。宴も酣のうちに終了しました。最後に金正恩は習近平に一礼します。礼儀正しいですね。

1月9日

35:22
午前、漢方薬製造企業である北京同仁堂のため、宿舎である釣魚台迎賓館を出発します。お出迎えに来たのは王滬寧と宋濤。
36:28
漢方薬製造企業である北京同仁堂を見学します。製造方法や経営状況についての説明を受けたようです。
38:11
満足して帰ります。帽子をとって挨拶をします。出口には目隠しのテントが張ってあります。
39:00
一度、宿舎である釣魚台迎賓館に戻ります。スタッフに挨拶をして、再度出発します。
39:40
北京飯店に行き、習近平と最後の首脳会談を行います。首脳会談のあとは午茶(アフタヌーンティー)を楽しみました。「家庭的な雰囲気」の中、行われたそうです。
43:09
午後3時、北京駅から帰途に就きます。お見送りには王滬寧 中国共産党中央政治局委員と蔡奇 北京市党委員会書記、宋濤 中国共産党対外連絡部長が来ました。将軍様の隣で顔を出す存在感のある女性は通訳(おそらく)です。

1月10日

43:36
深夜、丹東駅に到着し、列車内で宋濤 中国共産党対外連絡部長や鉄道部幹部と会談を行います。車内で習近平に宛てた親書を宋濤に渡します。北京から丹東まで高速鉄道でも6時間ほどかかるので、客車ならもっと夜遅くになったでしょう。北京駅で見送ったのにさらに国境まで見送りに来た宋濤は大変だったと思います。
44:33
お互い抱き合ってお別れです。また会うことを約束します。感動的なシーンです。金正恩の右奥には金与正の姿も見えます。6号車が専用車である可能性が一番高いですね。
45:29
行きとは違い、帰りは平壌駅に到着します。駅には「敬愛する最高領導者金正恩同志万歳!」というスローガンがかかっています。
48:00
午後3時、列車が到着します。金永南を始めとする幹部たちの出迎えを受けます。老人は口が臭いから手で覆うように、という指導を守る幹部も散見されます。
48:30
専用車で平壌駅を出発します。これにて、一連の中国訪問は終わりました。

カテゴリー
世界の書店

東南アジアの書店事情

タイの書店

タイ

タイの書店はあまり見かけません。ときどき洋書(欧米系言語の本)を扱う本屋がありますが、タイ語の本を扱う本屋はほとんどありません。というのも、 タイで大衆小説や子供向けの本以外の文学作品の出版物は個人や寺が持っているそうです。そのため、手に入れるには一工夫がいると『道は、ひらける―タイ研究の五〇年』に書いてありました。

重要な文献は、書店で買うことができなかった。なぜなら、それはお葬式の際に参会者に配るための出版だったからである。

石井米雄(2003) 『道は、ひらける―タイ研究の五〇年』 めこん、p.116

ミャンマー

DPZでの西村さんのレポートでもあるように、ミャンマーでは古本を補修して読むスタイルが定着しています。そのため本屋さんも割と見つかるので街歩きも楽しいです。何が書いてあるかわからないけど、丸いビルマ文字を眺めるのは楽しいです。

ラオス

ラオスも社会主義国だけあって、書店は割とあります。出版物の中にはラオ語の本のほか、フランス語の党機関紙もあったりします。さすが旧仏領と思います。ただ、本は需要がないからかかなり高いです。驚きます。

マレーシア

ほとんど本屋を見かけません。私はいつも空港で買います。

シンガポール

こちらは日系の紀伊国屋ばかり行くので、地元の書店はあまり知りません。空港には割とあります。

カテゴリー
世界の書店

中国の書店事情

中国の書店

中国の書店といえば国営新華書店です。大規模だし品数も多いです。おそらく最大のものは北京の西単にある大書城でしょう。2010年代前半に行ったときは店内に耳の聞こえない人たちのための募金を集める人たちがいましたが、いまはそういう寄付金詐欺まがいの人たちはいなくなりました。

中国は経済大国になったとはいえ、日本と比べると物価は安いです。しかも印刷物は版を作るのが高く、刷るのは安いので大量印刷するほうが1冊あたりの単価が安上がりになります。物価安な上に大量に印刷する中国では必然的に本はかなり安くなります。

古典や辞書のたぐいはたくさん出ているし安価で買えます。ただほぼ全て簡体字なので、慣れないと違和感があります。そもそも漢文を簡体字で読む必要性も感じられませんし…。

新華書店は国営の書店だけあって、党大会のあとは報告書が平積みされる一方でほんとうの意味で面白い本は出回っていません。ちゃんと在庫管理がされています。

新華書店の他にも独立系の書店もあります。北京だと万聖書園や三聯韜奮が有名です。近年は当局の締付けが厳しく、いつまで生き残れるかわかりません。ただ、これらのお店には新華書店とは違った品揃えの本が置いてあって興味深いです。

独立系書店の一つ、PAGEONE。おしゃれ系本屋

その他、中国では大学等が出版部門を持っているため、北京語言大学には語学書が、中国社会科学院には社会科学関連書が揃った書店が、民族出版社の書店には各民族の言語で書かれた本まであります。また、古本屋といえば中国書店が有名チェーンです。北京市中心部にはあまりないですが、少し郊外に行くとあります。

民族出版社

ただ、本に限ったことではありませんが、中国では国土が広大で移動が大変なこともあり、ネットショッピングがものすごい勢いで広まっています。おそらく国営の新華書店や研究機関、出版社付属書店は大丈夫かと思いますが、それら以外の民間の書店が経営的にいつまで生き残れるのかは不透明です。

カテゴリー
世界の書店

台湾の書店事情

台湾の書店といえば、誠品書店が有名です。esliteというブランドでステーショナリーなども扱っています。旗艦店は台北101近くにある信義店です。その近くの南敦店も雰囲気のあるお店です。

台湾の出版事情は人口2300万人の国家の限界かあまり良くなさそうです。本の値段は日本で同等のものを買う場合の8割ほどです。しかし大卒初任給が日本の半分程度と考えると割高です。原因の一つは翻訳物の多さがあるかもしれません。

日本の小説も多くありますが、網羅的とは言えません。例えば森見登美彦の作品は『夜は短し歩けよ乙女』『夜行』が翻訳されている程度ですし、小川糸も『ツバキ文具店』ぐらいしかありませんでした。そのため、日本でのように谷崎潤一郎三島由紀夫の『文章読本』を読んでから斎藤美奈子の『文章読本さん江』を読む、といったような楽しい読み方ができません。

ただ、中国(大陸)や台湾の小説はやっぱり貴重で、買いに行く価値はあります。簡体字の本は神田で手に入りますが、繁体字の本は日本国内で手に入れるのが難しいからです。辞書も繁体字のものは日本ではほとんど手に入らないので、私は台湾で中日・日中辞書を買い求めました。店内には映画やテレビドラマのDVD、店舗によっては音楽のCD・DVDも置いてあるので、毎回チェックしますし、結構買ってしまいます。

その他、台北駅南側から西門町あたりには数多くの書店が集まっていて台湾随一の書店街の様相を呈していますので、見ているだけでも楽しいです。

カテゴリー
世界の書店

中東の書店事情

イランの書店員

イスラム教、ヘブライ教の国が多い中東では聖典を読む機会が多いからか、本屋さんが多くあります。ほとんどがアラビア語、ペルシャ語、ヘブライ語の出版物なので相当勉強した人でないと読めません。旅行者には不便ですが、これだけの出版文化がまだ維持されているのはさすが四大文明の生まれたところと感じます。

イスラエル

イスラエルではエルサレムの新市街、路面電車の走っているメインストリート沿いに本屋を見かけます。ほとんどヘブライ語っぽかったのであまり調べてはいませんが、本に困れば英語、ドイツ語であれば手に入れることはできそうです。

イラン

イランではまだそこまで西洋化が進んでいないからか、それともコーランをよく読むお国柄だからか、書店は割と見かけます。諸外国ではあまり見かけなくなった絵葉書も多くあります。特にテヘランではテヘラン大学周辺に教科書や参考書を売る書店のほか、古本を売る屋台もあります。ほとんどペルシャ語なのはご愛嬌。

古本の露天 真ん中にはヒトラーの『わが闘争』
本がぎっしりイランの書店

ヨルダン

ヨルダンではアンマンの市街地や市場で本をよく見かけます。本を売っているおじさんたちは英語で話してくれると思います。売っている本は大半がアラビア語です。

ヨルダンの書店
ヨルダンの書店
カテゴリー
レビュー

物語についての物語についての物語…

森見登美彦(2018)『熱帯』文藝春秋

「あなたは何もご存じない」

彼女は指を立てて静かに言った。

「この本を最後まで読んだ人間はいないんです」

本書 p.37

「世界の中心には謎がある」

本書 p.455

ふしぎな本です。読めば読むほど謎が深まります。読み終えたあとも謎は残ります。

話は作家・森見登美彦氏が学生時代に読んだ本を思い出すことから始まります。それは佐山尚一『熱帯』という本です。古書店で買い、読み進めたものの、ある日忽然と姿を消しました。読了しないまま、今まで来ています。

登美彦氏はある日、縁あって勧められた沈黙読書会という名の読書会に参加します。参加者は各自持ち寄った本の謎について語らいます。その場に一人の女性がいます。彼女が手にしているのは、登美彦氏の部屋から消えたあの本、『熱帯』でした。

『熱帯』は冒頭の引用にある通り、読み終えた人がいません。皆、途中で断念してしまっているのです。読んだことのある人たちがストーリーを再現すべく、結社を作ります。彼女もメンバーになっています。これまで、結社内ではあるところからストーリーが進みませんでした。しかし彼女の一言で物語はぐっと進みます…

本書のベースになっているのは『千夜一夜物語』です。さまざまな物語が語られることで、一つの物語を形作っています。本書も同様に、物語についての物語であり、語られる物語がさらなる物語を語り始め…と入れ子型の構造になっています。まるでA story which was talked by a person who received a story which was talked by a person…と、延々と続く関係代名詞のような物語です。

ふしぎな読後感を伴う小説です。この読後感を味わえただけでも、十分に価値ある読書体験でした。

森見登美彦『熱帯』 忽然と消えた一冊の本をめぐる冒険譚

カテゴリー
レビュー

ナマコの半分 ウナギの3割は密漁品

鈴木智彦(2018)『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』小学館

ヤクザたちのほうが真面目だった。漁師に漁場を聞きながら最終的にはカタギより水揚げした

本書 p.232

「漁師は最高。ずっとこの仕事をしたい」
 先進国の中、たった一国だけ衰退を続ける日本の漁業関係者からは聞けない台詞だ。

本書 p.301

日本で流通する海産物の密漁の実態を追った本です。筆者は裏社会を中心に雑誌で取材をしてきたジャーナリストです。福島第一原子力発電所に作業員として潜り込み、『ヤクザと原発 福島第一潜入記』を書いた人でもあります。それだけに裏社会への取材方法をわかった上でアプローチしており、読み応えがあります。

最も読み応えがあったのはウナギの話です。本書で出てきた密漁のうち、ウナギだけが正規ルートより裏ルートの方が高い単価で取引されます。ウナギが特別であることが伺えます。 ウナギは完全養殖が確立していないので、稚魚(シラス)を捕まえて育てる必要があります。日本でのシラス漁はほとんど何の規制もない状態で行われています。そのため、密漁が跋扈しています。

シラス流通の透明化にいち早く動き、成果を上げているのが宮崎県です。漁協と県で許可制にし、密漁を減らすことに成功しました。しかし近年でも宮崎県が年間360kgのシラス漁を許可したのに対し、県内の養鰻業者が買ったシラスは3.6トンでした。すべてが密漁ではないにしろ、多くが密漁だと伺えます。そして密漁のシラスの値段は県が設定した値段の倍が相場です。闇相場を表の相場が決める皮肉な結果になっています。

海外から入ってくるシラスは大半が台湾産です。台湾の南部に行くと養鰻池が多く見られます。冒頭の「漁師は最高」と言ったのは台湾のシラス漁師です。かなり良いお金になるらしく、シラス御殿もあるそうです。しかし台湾では政府がシラスの輸出を禁止しています。現在、日本のシラスの大半は香港から入ってきています。香港には台湾産のシラスのほか、絶滅危惧種とされているヨーロッパウナギの稚魚も入ってきています。ウナギ密輸の拠点となっています。本書はその輸出元にも直撃取材をしています。

本書で扱われるのは以下の魚介類です。おそらくこれも氷山の一角でしょう。

  • 三陸のアワビ
  • 築地
  • 北海道のナマコ
  • 銚子
  • 北海道の鮭、マス
  • 九州、台湾、香港のウナギ

銚子では昭和のヤクザと漁業の関わりを、北海道の鮭、マスのメインは90年代前半まで行われていた根室の漁師とソ連の沿岸警備隊の共存関係の話です。当時の根室では密漁船を一度捕まえて取り調べをし、帰国の条件として日本の特に自衛隊の機密を持ってくるよう依頼されていた漁船も多くあったそうです。本書は当時を知る関係者に話が聞けたという点で、とても貴重な記録になっています。また、冒頭の引用にあるカタギより真面目だったヤクザも根室の話です。ひたいに汗をかかず儲けるかを考えるヤクザがカタギより真面目に働いていたのは、いい金になったからでしょう。