土俵のずらし方
弟子: 絶望から抜け出すにはどうすればいいのですか?
ウチボリ: 本書のバックグラウンドを知ることだ。
弟子: バックグラウンド?
ウチボリ: そう。歴史の中での本書の位置づけだ。
弟子: この本が歴史とどう関係あるんですか?
ウチボリ: 過去にこの本と似たようなことが書かれているんだよ。
弟子: そうなんですか!?
ウチボリ: そう。本当にクリエイティブなものも何かを参考にしている。
弟子: 知らなかった…具体的にはどんな本ですか?
ウチボリ: マルクスの『資本論』さ。
弟子: 大御所がきましたね…
ウチボリ: 読んだ?
弟子: 読んでません。
ウチボリ: 正直だね。
弟子: 教えてください。
ウチボリ: 好感もてる。
弟子: はやく!
ウチボリ: 分かった、分かった。それが教わる態度かな…
弟子: おおおねがいします。
ウチボリ: 『資本論』はいくつもの読み方ができるが、要点は以下の二つだ。
- 資本家が労働者を使って利益をあげる
- 資本家と労働者の関係は永遠に変わらない
弟子: 絶望だ、また絶望がやってきた!
ウチボリ: たしかに、絶望だ。
弟子: 希望はないのですか…
ウチボリ: あるよ。
弟子: 教えてください。
ウチボリ: 好感もてる。
弟子: はやく!
ウチボリ: どこかで見たな、このやりとり…
弟子: おおおねがいします。
ウチボリ: 瀧本の本に書いてあるじゃないか。
弟子: わかりませんよ、もう。
ウチボリ: 似たような内容の本に『金持ち父さん貧乏父さん』がある。
弟子: 昔のベストセラーだ!
ウチボリ: そう。
弟子: どういう内容なんですか?
ウチボリ: サラリーマンは使われるだけ、稼ぎたかったら起業しろ、という内容だ。
弟子: 起業しても失敗するかも知れない。
ウチボリ: 成功するために著者の開発したボードゲームを薦めている。
弟子: 買わないと!
ウチボリ: だから! それが「使われるだけ」なんだ。
弟子: んん???
ウチボリ: 使われる方は稼げない。搾取されるだけだ。
弟子: そうですね。
ウチボリ: 結局『金持ち父さん貧乏父さん』は『資本論』と同じことを述べている。
弟子: あれ、じゃあもしかして?
ウチボリ: そう、瀧本の本もおんなじだ。
弟子: 周期的に似た内容の本が出るんですね。
ウチボリ: 大事なことだけど、人は忘れちゃうからね。
弟子: 絶望から逃れるにはどうすればいいのですか?
ウチボリ: 二つ方法がある。
- 資本家になる(=起業する)
- 資本家が無視できない労働者になる(=熟練労働者になる)
弟子: 瀧本はそんなこと言ってましたっけ?
ウチボリ: みてみよう。
『僕は君たちに武器を配りたい』
- トレーダー=とれた魚をほかの場所に運んで売ることが出来る漁師
- スペシャリスト=一人でたくさん魚をとるスキルを持っている漁師
- マーケター=高く売れる魚を造り出すことができる漁師
- イノベーター=魚をとる新たな仕組みを作り出す漁師
- リーダー=多くの漁師を配下に持つ、漁師集団のリーダー
- インベスター=所有する船に乗っている漁師に魚をとらせる
1と2は生き残れない。生き残りたければ3~6のいずれかになれ。
弟子: 3~5が熟練労働者で6が資本家だ!
ウチボリ: そう、結局同じことを言っているんだ。
資本主義を見つめなおす
弟子: でも、先ほど言われたように、5や6には配下の漁師が必要です。
ウチボリ: そうだ、彼らは一人では何もできない。
弟子: 絶対に搾取される人の方が多くなります。
ウチボリ: そのとおり。
弟子: じゃあ、多くの人にとって絶望しか残らない…
ウチボリ: 資本主義の中で生きる限りにおいてはね。
弟子: どういうことですか?
ウチボリ: 資本主義を相対化するんだ。
弟子: 共産主義者になれということでしょうか。
ウチボリ: 違う。組織で働くだけが人生じゃないだろう?
弟子: その通りです。お盆に正月、週末祝日アフター5…
ウチボリ: わかった、わかった。な、仕事だけが人生じゃない。
弟子: 余暇を充実させないと!
ウチボリ: そう。人は資本主義だけで生きているわけじゃない。
弟子: 日本でもですか?
ウチボリ: 地域によるけど、現金収入がなくても食べていけるだろう?
弟子: 野菜作ったり、魚を捕ったり。
ウチボリ: そう。資本主義の外で生きていくことも可能だ。
弟子: じゃあ瀧本の本を読んで絶望する必要はないのですね?
ウチボリ: そうだ。彼が教えるのは資本主義を生き残る方法だ。
弟子: 安心しました!
ウチボリ: 落ち着いたね。
弟子: 資本主義の外ではどう生きればいいのですか?
ウチボリ: それぐらい自分で考えろ、と言いたいが…
弟子: 言いたいが…何かある。
ウチボリ: その辺りは、たとえば佐藤優がよく書いている。
弟子: 教えてください。
ウチボリ: いいよ。
弟子: 軽い!
ウチボリ: だけど、また別枠で語り直そう。
弟子: 分かりました。瀧本の本は読まなくてもいいんですね?
ウチボリ: そうじゃない。資本主義で生き残るには有効だ。
弟子: 資本主義の内と外、一体どっちで生きればいいんですか!?
ウチボリ: それを考えさせるところに、本シリーズの意義があると思うね。
弟子: セコイ逃げ方!
(了)