野崎まど(2013)『know』早川書房
「(前略)学者の方からは非難される行為なのかもしれませんが、保管庫は思想そのものが違うのです。保管庫の思想とは”現物を、変化なく残すこと”です。古事記の冒頭にも記されていますが、記録という行為には必ず誤りが生まれます。複製からも再編からもエラーを取り除くことはできません。最初に作られたものを、最初の形のまま残す。守るために外部との接触を断つ。それが保管庫の思想なのです。(後略)」(本書p.265)
2014年のSF大賞にノミネートされた本書は、2081年の京都を舞台に「知る」ことをキーワードに展開していく物語だ。
その頃の京都は超情報化対策として、人造の脳葉「電子葉」の移植が義務化されている。また、街中の道路や建築物も情報材でできている。だからすべての人がタグ付けされ、ありとあらゆる情報がすぐに取り出せるようになっている。この社会インフラを作ったのが京都大学の研究者、道終・常イチ。彼はひと通りのことをやり終えると姿を消した。情報庁の官僚、御野・連レルは恩師である道終・常イチの後を追うべく、情報庁の官僚となって高度な機密にアクセスできる権限を得る。道終・常イチがコードに埋めたミスが自分へのメッセージだったことに気づいた彼は14年越しに暗号を解いた。
そこにいたのは14歳の少女だった。
翌日から、少女との不思議な4日間が始まる。「電子葉」をつけた二人は京都の禅寺・神護寺や京都御所など、「情報化」されてない場所に行き、「情報化」されてない知識を得る。森羅万象の知識を得るのは、あることを知るための手段に過ぎなかった…
情報をどう処理するかは、情報化社会を生きる我々にとって大きな課題だ。web2.0やビッグデータといった言葉が流行ったが、結局情報を上手に使いこなせていない。情報を使うとはどういうことか、自らの処理量を上回る情報を手に入れて何をするのか。情報とのつきあいかたを考えるにも本書の視点は参考になる。
同様に京都を舞台にした人工(知)脳の話としては鳥羽新の『密閉都市のトリニティ』があるが、こちらのほうがあっさりして読みやすい。まずは本書を読むのがオススメだ。