佐高信, 佐藤優(2013)『世界と闘う「読書術」―思想を鍛える一〇〇〇冊』集英社
あの人(管理人註:長谷川宏)を見ると思うんだけれども、人は本当に好きなことをやっていれば絶対に食っていけるし、その本を出すことはできるし、その分野で認知されるという一つの例ですよね。ただ、中途半端に好きではダメで、本当に好きなことをやっていないといけませんが。(本書 p.182)
佐藤優と佐高信の対談。関心も読んできた本も違うので、対談で違った知性のあり方があぶり出されている。国家、家族、歴史、宗教や文芸批評について語るのはこれまでの対談本にもあったが、時勢を反映してか、ブラック企業をはじめとする「働き方」をテーマにした対談もある。そこでは稲盛や経団連もバッサリと切り捨てられている。あの人たちが講演会や朝礼で述べる「苦労したから報われた」というのは、本当は逆で「報われた人は苦労している」だけにすぎない、とする佐藤の指摘は、当たり前だが新鮮だ。自分の頭で考えて、視点を変える、視野を広げる大事さに気づかされる。
冒頭で引用した箇所で佐藤は長谷川宏訳のヘーゲル『論理学』等について述べている。amazonのレビューなどでは、長谷川訳は読みやすいけど厳密ではないという批判も多い。とりあえずの輪郭さえ分かればいいのであれば長谷川訳を、厳密に知りたかったら別の人のを参照にするのがよいようだ。そうした事情を分かっているのか、章末の必読書リストに挙げられてはいるものの、佐藤セレクションとはなっていない。
このように、誰の作ったか分からないリストを見ながら対談を振り返り、言及された本と佐藤・佐高セレクションを対照させていくのも、また面白い。