鹿島茂(2003)『勝つための論文の書き方』文藝春秋
これまでに立てたことのないところに問いを立てるとしたら、その問いが果たしてトリビアルな問題ではなく、本質的な問題に届いているかどうか、リンゴの芯を切っているのかどうかということを検討しなければなりません。(本書 p.64)
論文というのは、自分の頭でものを考えるために長い年月にわたって練り上げられてきた古典的な形式なので、ビジネスだろうと政治だろうと、なんにでも応用がきくのです。(本書 p.231)
もっと若い時に読んでおけばよかった。いつ読んでもそう思うに違いない。
筆者はサントリー学芸賞受賞作でも最高に面白い『馬車が買いたい!』の筆者であり、無類の書評家にして古書と木口木版印刷本の蒐集家である。その一方、共立女子大(当時)で教鞭をとる教育者である。みんなが読みたくなる論文がどうすれば書けるようになるか。それをろくにフランス文学どころか小説の名に値するものすら読んだことない学部生に教える。そういう体裁で書かれてある。
ただ、中身は十代向けではない。そしておっしゃることはごもっとも。しかし行うは難し。
やるべきことは数少ない。よい論文はよい結論があるもの。よい結論のためにはよい大クエスチョンを用意する。よい大クエスチョンを上手に少しずつ解いていき、答えを出せばいい。
一番の難関はよい大クエスチョンを見つけること。そして解くためのツールを見つけること。そのツールは、大体みんなが手にしている。まだ気づいていないだけだ。その気付きを与えるため、著者は具体例をいくつも挙げて、果ては自分の名著『馬車が買いたい!』の発想法まで開陳して教えてくれる。
いい論文の書き方は、いい企画書、いい起業にも応用できる。そのカギは身近にあるが、明らかに年長者の方が有利だ。あとは気づくだけ。さあ、周りを見渡してみよう。