瀧本哲史(2011)『僕は君たちに武器を配りたい』講談社
発売以来すでに10年以上が経過しているが、あの本(筆者注『金持ち父さん貧乏父さん』を読み、書いてあることを実践して、「不労所得で大金持ちになることができた」という人の話を聞いたことはいまだない。(本書 p.6)
自分の信じる道が「正しい」と確信できるのであれば「出る杭」になることを厭うべきではない。本書で述べてきたように、人生ではリスクをとらないことこそが、大きなリスクとなるのである。(本書 p.289)
一歩進んだ自己啓発本。大体この手の本では佐藤優や勝間和代がスペシャリスト(マルクスのいう「熟練労働者」)になることを勧めるのに対し、本書ではスペシャリストすらグローバル化の中では生き残れないと喝破する。
ではどうすれば生き残れるか。著者は4つの選択肢を挙げるが、ここでは代表例として二つ挙げる。マーケッターとイノベーターだ。前者が市場のニーズを満たす人、後者が市場にニーズを作る人だ。
本書でも指摘されているが、資本主義の中で自由な活動をするにはベンチャー企業のほうがいい。だからこそ、有効求人倍率の低い大手企業ではなく、引く手あまたの中小企業にも目を向けることを著者は勧める。こういう本を読んでいつも気になるのは、結局著者だって東大助手からマッキンゼーと超大手を渡り歩いてきた人であることと、今の社会では資本家に使われる単純労働者だって一定数必要であることだ。
中小企業に入ってからのし上がってきた人たちから言わせて見れば、実態はもっとシビアなものではないのか。東大法から学士助手になるような、10000人に1人の逸材よりも、凡人の話こそ我々の心を打つのではないか。
また、「かごに乗る人担ぐ人、そのまたわらじを作る人」の言葉があるとおり、起業家やマーケッターになるのはいいが、そこには大多数の単純労働者や一般消費者が前提とされている。彼ら全員が起業家やマーケッターになるのは現実的ではないし、我々の何割かは常に単純労働者にならざるを得ないのだ。
結局、この手の本は選民思想が少し入っている。それがダメなわけではない。今の世の中ではどのような人生を歩むのも自由だ。ただ、夢への切符を提示すると同時に、夢破れたときのリスクをも明示するのが大人の態度であると思う。