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レビュー

大きな物語崩壊後に成長するデータベース

東浩紀(2001)『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会』講談社

シミュラークルの水準における「小さな物語への欲求」とデータベースの水準における「大きな非物語への欲望」に駆動され、前者では動物化するが、後者では疑似的で形骸化した人間性を維持している。要約すればこのような人間像がここまでの観察から浮かび上がってくるものだが、筆者はここで最後に、この新たな人間を「データベース的動物」と名づけておきたいと思う。(本書 p.140)

非常に有名な本。いわゆるサブカルチャーをする場合には非常に参考になる本。

かつては作品があれば作者が舞台とした世界があり、作者が書く(あるいは制作する)ものしか受け入れられなかった。一方、オタクと呼ばれる人たちは作者が書いたもののパロディ(あるいはオマージュ)として二次創作をおこない、それらも同様に受け入れられている。甚だしくは作者自身がパロディ作品を作ったりしている。彼らにとって大事なものなのは作者が舞台とした世界ではなく、作者の描いた要素(萌え要素)である。読者の喜ぶ要素を押さえていれば、それは受け入れられる。こうした状況を様々な材料からある要素を組み合わせて作るという点で、筆者はデータベース的であると分析する。

こうした考え方は非常に面白い。2000年代初頭にこの本が書かれているのだけれども、こういう視点から行われている分析というのはいまだにあまりないのではないかと思う。筆者はこれをポストモダン的社会の特徴であると述べているが、あるいはポストモダン的社会以外でも使えるのではないか。これは要素のブリコラージュで、データベース(大きな非物語)の中にあるそれぞれの要素を持ってきてくっつけて、作品(あるいは小さな物語)を作り出すという考え方は様々に応用できると思う。言語の分析においても、書かれたり話されたりしている言語(小さな物語)からその奥にある要素の海(大きな非物語)へのアプローチを行うという方向があってもよさそうだ。

ホンモノがなくなったポストモダン的時代での、非常に有力な社会分析のアプローチが本書では簡潔に、かつ興味深い形で呈示されている。