カテゴリー
レビュー

夢見の訓練を通して全てを悟る

カスタネダ, カルロス 青木保監修・名谷一郎訳(1993)『未知の次元-呪術師ドン・ファンとの対話-』講談社

 もうすっかりメスカリトの話は出てこなくなってしまった。カスタネダシリーズの第5弾。

 本書でドン・ファンは訓練の一端として、カスタネダに夢見の技術を教える。それはたまに手を見つめる、という訓練だった。手をみて、また別の対象をみて、それから目をまた手に戻す。それを繰り返す訓練をしていた。 これもカスタネダ関連の書籍ではよく言及される話なので、興味深かった。
 あとがきで青木保(文化庁長官)もすこし言及しているように、これはどちらかというと最初のフィールドワークっぽい作品から、明らかに文学っぽい作品へとシフトしている。そして、どうも真実味はないらしい。ということまで明らかにされている。

 だとしても、本書は読むに値する。なぜなら、ここですべての謎がわかるからだ。これまでの訓練の話も、師匠と恩人の話も、そして航空会社の支店に入ったらなぜか市場に出ていたというのも、すべてが一本の線で結ばれる。

 その答えはトナールとナワールにある。ドン・ファンにとっては世界はトナール(理性)の島であり、その島の配置を換えることが師の役割だという。ナワールはトナールの周りに控えているもので、これが理性以外の世界にあたる。カスタネダはずっとトナールの世界に籠絡され続けていたが、これまでの14年間に及ぶ修行で、ようやくトナールとナワールの両方を扱うことができた。

 ナワールの世界は楽しく、戻って来たくなくなるかもしれない。そこで戻ってくるにせよ、戻らないにせよ、それは戦士の選択である。とドン・ファンはいう。戻ってこれなかったら、もうそれはこの世では死んだことになる。彼がいつも死ぬ覚悟で臨めというのは、ここでも現れている。

 最後、カスタネダはナワールの世界に旅立つのだが、戻ってきたかどうか、その行方は杳としてしれない。