世界と競った猛者に教わる情報分析


佐藤優(2014)『私の「情報分析術」超入門: 仕事に効く世界の捉え方』徳間書店

こういうときになるといつも顔を出してくるのが袴田茂樹新潟県立大学教授(青山学院大学名誉教授)だ。ちなみに筆者が徳間書店から上梓した『外務省主任分析官・佐田勇の告白-小説・北方領土交渉』には、赤間田繁樹メソジスト大学教授という妖怪教授が出てくる。赤間田教授は、あくまでも小説の架空の人物で、モデルとなる実在の学者はいないことをここで強調しておきたい。(本書 pp.111-112)

「情報のための情報」、「分析のための分析」に私は意義を認めない。(本書 p.233)

私の「情報分析術」超入門: 仕事に効く世界の捉え方 (一般書)

情報分析でて世界としのぎを削っていた佐藤優が教える、情報分析の手法。本書はまず講義篇で情報を分析する基礎体力の付け方を教え、実践篇でロシア、日本、中東を分析していく。

基礎体力として筆者が重視するのは広いアンテナ、語学、数学、歴史だ。広いアンテナは具体的には新聞各紙に目を通すなどしていろんな情報を仕入れ、色んな角度からの見方を仕入れること。その際には語学力も重要になってくる。その際に「ふくらし粉」が入っている場合もある。それを見抜くには数学(数字のトリックにダマされない)、歴史(過去の事実に学ぶ)を抑えておく必要がある。

講義篇もためになるが、本書で面白いのは実践篇だ。筆者がプロとして仕事をしていたロシアの分析に加え、日本、そしてイスラエルやイスラム圏など、幅広くかつ世界的に注目を集めている地域について分析する。一部に筆者独自の情報源による裏話もあるが、大半が誰もが手に入れられるような情報を分析した結果だ。公開情報を読み込むと見えてくる世界の奥深さに舌を巻く。

本書で一番面白いのは、具体的な人物名をあげてかなり激しい調子(ともすれば品のない言い方)で糾弾している箇所だろう。それでも筆者は争いを望まない性格なので抑えて書いているという。そこまでして指摘するのは、なにも個人的な恨みからではない。それらの人々は意識せずに日本を戦争へと導いているからだ。だから強い調子で警告を発している。筆者には国益が第一であるというブレない姿勢があるから、論戦に強い。その姿勢に、今後のグローバルな社会の中で大事にすべき中心軸が見える。


北方領土返還の実現可能な案


佐藤優(2014)『元外務省主任分析官・佐田勇の告白―小説・北方領土交渉』徳間書店

「僕は作家だから、警鐘を鳴らす作品を書く。論文やノンフィクションではなく、小説だ。(後略)」(本書 p.265)

本書は『読楽』に「外務省DT物語」として連載されていた小説を書籍化したもの。中身は暴露話っぽいところもあるが、いたってまじめな動機(を装って)で書かれている。筆者の最終的な目的は、北方領土交渉の前進だ。そのための障害を取り除く地ならしの役割を本書に担わせている。

北方領土の返還はどう行われるのがいいのか。主義主張ではなく、外交の実務経験者として著者が描くのは実現可能性が一番高い案だ。これを読むと、日露双方の外交担当者が真摯に向き合い、あとは政治決断さえあれば北方領土交渉は大いに前進すると思える。

あくまでもフィクションという体裁にしているが、気のせいかよく読めば分かるような偽名を使っている。が、それは気のせいだ。鯉住俊一郎や都築峰男が小泉純一郎や鈴木宗男かと思ってしまうのは、あくまでも読む側の深読みなのである。深読みだけど、本書の目的とはあまり関係のないところで不倫関係(?)を暴露されている外務事務次官がかわいそうな気がした。純愛らしいから、いっか。


ジブリ映画を超えたジブリ漫画


宮崎駿(2003)『風の谷のナウシカ』徳間書店

「何がおころうとしているのか判らない…… でも何かとてつもないおそろしいことがどこかで始まっている あれはその最初のきざしだわ」(2巻 p.86)

未来の地球では腐海と呼ばれる人の住めない、しかし蟲と呼ばれる生物だけが住める森が増えていく。同時に腐海に領土を取られた人は生存可能な土地をめぐる争いをする。その争いの中でも腐海は増え続け、蟲の王である王蟲に、腐海が増え続けた結末を教えてもらったナウシカは、最悪の事態を避けるために立ち上がる。風の谷の仲間とともに…。

立花隆と佐藤優の対談本で言及されていた中で唯一絶賛されていたアニメ(のオリジナルストーリー)。映画化されたのはごく一部(2巻の前半まで)で、漫画の方が数倍スゴイ。立花が宮崎駿に全てを映画化しないのか、と聞いたところ、あれはできないと言われたのだとか。作者ですらあきらめてしまうほどのスケールが7巻に詰まっている。

ストーリーの展開が割と早く、先へ先へと読ませる。簡潔なのだ。逆に言うと要点しか描かれていない。だからストーリーが進むとともに、読者が細かな事情を考えなければならない。それが7冊続く。まるで濃厚なスープを大鍋で飲んでいるような感覚になる。

映画では人間と腐海をはじめとする自然との対立のようにも読めるが、そうではない。人間が周囲の環境とどう向き合うかというローカルな話を超えて、人間を含んた環境は、さらなる大きな環境とどうかかわるかという話につながっていく。人間対自然の古い対立を超えた近代的な問いこそが、ナウシカが私たちに投げかけるメッセージだ。