よりよい政治のために首相政治を知る


待鳥聡史(2012)『首相政治の制度分析―現代日本政治の権力基盤形成』千倉書房

安倍以降の自民党政権もまた政策的な成果という意味では極めて不十分であった。五人連続で不成功の短命政権が続くということは、首相個々人の能力や資質では説明できない、より構造的な制約要因が日本の首相政治にはなお存在していると考えるべきではないだろうか。(本書 p.171)

小泉は中選挙区制時代の自民党では決して総裁になれなかったであろうが、一方、佐藤や竹下でさえ小選挙区制の下でどこまで活躍できたかは大いに疑問が残る。(本書 p.184)

サントリー学芸賞の選評で五百旗頭真が述べている通り、本書はアメリカ政治研究が専門の著者が、これまでの比較政治と言う武器を手に日本の首相制度を論じた本だ。著者の疑問はシンプルだ。日本の首相制度はどこからやってきて、どういうもので、どこへ向かおうとしているのか。

その違いを見るため、国内では「大統領型」といわれた二人の政治家、中曽根康弘と小泉純一郎を例に出し、国外ではアメリカの大統領制を比較の俎上に載せる。

日本の首相はアメリカの大統領と違って、政治任用スタッフをあまりおいていない。だから首相は派閥の推薦で閣僚を決め、閣僚が官僚とともに制度をつくる。小泉以降は政治任用の幅が増えたものの、逆に首相が上手にふるまわないと政治が回らなくなり、失脚してしまうもろ刃の剣になった。

与党と内閣の関係も「ウェストミンスター型」と「大陸ヨーロッパ型」に分けて検討をする。ウェストミンスター型は与党と内閣の一体性が強く、与党一般議員が執政中枢部の意思に反した行動をとりにくく、大陸ヨーロッパ型は比例代表制で連立政権が常態であるから内閣と与党の一体性は確保されにくく、与党一般議員が内閣提出法案を議会で修正しやすい(本書 p.167)。

首相制度は単独政権か連立政権かで大きく型が違って来る。これは選挙制度の問題だ。得票率は20%程度でいいため、接戦になりやすく、また同一政党でも一選挙区から数人の候補者・当選者を立てられた中選挙区と、より多くの得票率を必要とし、一選挙区一候補しか当選できない小選挙区。前者では政党の後ろ盾より個人として戦うため、当選後も党の影響力を与えづらい・後者は政党の看板で選挙戦を戦うため、当選後は党が影響力を与えられる。単独政権が生まれやすい中選挙区では与党は議員への影響が及ぼしづらく、与党が議員への影響を及ぼしやすい小選挙区だと、連立政権になりやすい。ああ二律背反、世の中よくできている。

著者にすれば、日本の民主主義は「未完のプロジェクト」だという。それは参議院の存在だ。参議院の特徴は三つある。「内閣との信任関係をもたない」、「衆議院とほぼ対等な関係」、「特異な選挙制度」だ。このうち1番目と2番目、3番目が整合性を欠く。衆議院の優越があるのは「民意の反映」が前提になっているからで、その制度が存在する限り、参議院は衆議院と差別化されないといけない。しかし現行制度では参議院に当選する議員の性格をあいまいにしている。ここをクリアにしないと、二院制の意味がない。

本書全般を通して言えるのだが、文章でグイグイ引っ張っていく筆致の力強さはない。クールと言えばそうだけど、なぜここまで日本の戦後政治を解明する必要があったのか。筆者をして数百日分の首相動静を調べさせる動機はどこにあったのか。それをもっと情熱的に語ってほしかった。