低迷混沌の現代を最低限のストレスで生き抜くために


佐藤優(2016)『秩序なき時代の知性』ポプラ社

木暮 (中略)ある一定の基準を超えたら、そこから先の幸福度は、お金には関係ないように思いますけどね。
佐藤 ある一定の基準というのは、数字としてどのくらいをイメージされてますか。
木暮 いまだと、ひとり暮らしなら300万円だと思っています。(本書 pp.90-91)

開沼 (中略)福島には以前から、東京発信の「福島かくあるべし」に嫌気が差している人が多くいます。そろそろ「自分たちの言葉」をつくっていかなければという感覚が熟してきているのかなと。(本書 p.158)

 佐藤優の連載対談で『右肩下がりの君たちへ』の続編にあたります。

 今回は

  • 開沼博(社会学者:フクシマ)
  • 國分功一郎(哲学者:哲学)
  • 木暮太一(作家:経済)
  • 水野祐(弁護士:法律)
  • 與那覇潤(歴史学者:歴史)

の5名と対談します。

 國分功一郎は地元である小平市の道路建設に際して、住民の生活に影響がでるのに行政の判断に住民の意見が反映されない事に気づき、住民投票を起こしました。結局、住民投票の投票率が低かったとされて、開票されることなく票は焼却処分されました。市長選とほぼ同じ投票率だったにも関わらず。ここに、國分は現代日本の民主主義の限界を見ます。

 木暮太一とは経済の、特にお金にまつわる話をします。佐藤も木暮も、だいたい欲しいものは手に入ったから物欲がなくなったという点で共通しています。これは私も同じで、ネット環境と衣食住に事欠かなかったら大体満足してしまいます。この対談は身の回りの人々の金銭感覚を等身大に表していると思いました。

 この本の一番の見どころは、やっぱり開沼博でしょう。福島出身の社会学者で、地元の当事者としても発言できる強みがあります。すなわち、福島のことが皮膚感覚で分かった上で話のできる貴重な知識人です。

 反原発、反基地、反自民とパッケージ化して語られるようになってしまったけれど、現実問題として福島の問題を語るには健全な状態ではありません。反原発にしても放射性廃棄物処理と数十年単位で関わっていかないといけない、すると技術者を養成しないといけない、そのためには原子力工学が魅力的なものであると発信しないと優秀な人材が集まらない。

 理想論ではなくて現実的な発想が必要です。廃炉だけでなく、帰村やコミュニティ形成方法なども同じことがいえます。やっとそろそろこういう議論が出来るようになってきた、というところにこの問題の根深さを感じさせました。

 情報過多の福島第一原発について語るため、百科事典形式にして出した『福島第一原発廃炉図鑑』は論点が整理されたデータブックとして、ほとんどクレームがつかなかったとのことで、興味がわきました。

 本書は若い世代との対談なので、若い世代が何を考え、どうやって社会と向き合って変えていこうとしているかが見て取れます。今の時代を生き抜く考え方が何パターンも出ていて、大いに参考にできそうです。