大学教授も気楽じゃない


今野浩(2013)『工学部ヒラノ教授』新潮社

どこでもそうだが、私立大学の場合は、1人の教官が面倒を見る学生数は国立の約3倍、講義負担も2倍以上である。国際水準の研究者を目指す者にとって重要な事は、研究時間が確保されることである。(本書 p.24)

企業に勤める友人に比べると、工学部平教授の給与は少ない。東工大を停年で辞めた時のヒラノ教授の給与は1000万円少々、つまり35歳の駆け出し判事の3分の2、30歳の銀行マンと同じレベルである。(本書 p.218)

筆者は東大卒業後、民間に勤めてから筑波大から東工大を経て中央大と渡り歩いてきた工学系研究者だ。文系教授の大学暮らしを描いた『文学部唯野教授』の向こうを張って理系教授の暮らしを描いたのが本書だ。

工学出身の人の対応を見ていると文科系出身の自分との違いに驚くことがある。彼らは忙しいにもかかわらず、まず仕事を断らない。こちらが勘ぐってしまうぐらい、仲間を褒め称える。本書を読んでその謎が氷解した。「工学部の教え七ヶ条」を読むと納得。七ヶ条にしたがって動く、という行動原理だけではなく、ヒラノ教授は更に一歩進んで、それぞれの条項がなぜあるのか、どういう意味を含んでいるのかをわかりやすく解説してくれる。

工学の人たちが仕事を断らないのは、仕事を任せてくれる時点で信頼されている証であり、チームプレーの多い学問分野なので断らないほうが後々得策だから。仲間を褒め称えるのは、学生の場合はそんな研究をさせた教官が責任を問われるべきだし、研究者でも二流だって食っていける分野だからだ。一方で文科系は食っていくのは厳しいから、研究発表も厳しく見られる。膝を打つ名解答だ。

さらに進んで、現役の研究者にはありがたい(?)研究費申請の内幕や経費の使い方についてまで暴露している。申請書は丁寧な字で書いて最後まで埋めること、すでにやってしまった研究をこれからやるように装うこと、などだ。

ただ、一つ感心できなかったのは、開き直りが見られる点だ。単年度で使いきらないといけない国の予算の使い勝手の悪さを嘆いたり、業者への偽装発注を通した預け金が当時は当たり前だったなど、シャレにならない暴露まで書かれている。法や省令に触れるし、それなりの地位まで出世して学長から文部省(文科省)にまで顔が利くようになった著者なのだから、制度を設計している側に直接言って変える方向で取組めたはずだ。佐藤優のように詫びるでもなく、自らの非は棚に上げ、世間の関心を誘うのはフェアではない。