知れば「おそロシア」も怖くない?


池上 「おそロシア」という言葉がありますよね。よくわからなかったり、怖かったりというのが、日本人のロシアに対する一般的なイメージだと思います。
(中略)
佐藤 (東京大学名誉教授の和田春樹先生が仰っています。日本人にとってのロシアには、常に二つの顔があると。一つ目の顔は「先生としてのロシア」。(中略)そしてもう一つ、同時にある顔が「軍事的な驚異としてのロシア」。

(本書 pp.64-65)

佐藤 (中略)今、「反知性主義」という言葉をよく聞きますが、ソ連共産党書記長には凡庸な人物が選ばれるのが常でした。日本的に言うと偏差値五〇前後の人しかならないようにしていたんです。

(本書 p.149)

ふしぎな国、ロシアについて外務省ロシアスクールに属していたエキスパートである佐藤優とジャーナリストの池上彰が対談形式で読者にわかりやすく謎解きをしていきます。

崩壊して住みづらかったと思われがちなソ連ですが、世界に良い影響ももたらしました。冷戦当時は資本主義国にとって共産主義国は脅威だったため、共産革命が起きないように社会保障が充実しました。また、特に宇宙開発では世界をリードし続けています。人工衛星も有人宇宙飛行もソ連が世界初でしたし、未だに宇宙ステーションに定期的にロケットを打ち上げているのはソユーズだけです。また、ポリオの生ワクチンもソ連が開発しました。その他、五カ年計画といった複数年で国家政策を作る方式も効果を発揮したため、多くの国で取り入れられました。

いっぽう、共産主義国特有の罪もありました。一つが労働時間です。国民は就職先を選べず、国によって就職先を割り当てられる「強制労働」をさせられていました。一方、実質的な労働時間は3時間だったそうです。中央官庁や党中央委員会の官僚は長時間勤務をしていましたが、特に給料が高いわけでもありませんでした。ただ、腐っていない卵が買えるといった特権はありました。お金による格差がない分、行列に並ぶ時間の格差がありました。

北方領土交渉やトランプのロシア疑惑など、ロシアは国際政治でも一筋縄で行かない相手です。専門家の佐藤をしてもわからないのが、ポロニウムを使ったスパイ暗殺事件です。なぜ核物質を使ってまでスパイを使ったのかも、イギリスが騒ぎ立てた理由も不明だといいます。そういう点が「おそロシア」という印象を強めているのかもしれません。

つくづくふしぎな国ですが、佐藤も池上も70年台の東側の暮らしは豊かだったといいます。実際に東欧諸国を回った佐藤も、70年台の東ドイツの暮らしを再現した博物館に行った池上も、同じ意見を述べています。本だけでなく、実際に行く大切さが伝わるエピソードです。