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レビュー

冒険上手な怠け者

森見登美彦(2013)『聖なる怠け者の冒険』朝日新聞出版

 記者は「あなたを何と呼べばよろしいですか?」と訊ねた。
怪人は胸を張ってこたえた。
「『ぽんぽこ仮面』と呼ばれることを希望する」
(本書 p.16)

2014年本屋大賞ノミネート作で、森見登美彦3年ぶりの長篇小説だ。舞台はやっぱり京都。怠け者が昼寝をしながら解決していく大冒険のお話だ。

ある日、京都の町に人助け専門の怪人が現れた。迷子の子供を助け、老人の荷物を持ってあげる、等身大の心優しさがある四畳半的怪人だ。その名を八兵衛明神の使い、ぽんぽこ仮面という。

ぽんぽこ仮面が突如、後継者として白羽の矢を立てたのが「人間である前に怠け者である」と堂々宣言し、土日は寝て過ごすことに忙しい小和田君だ。継げと迫るぽんぽこ仮面、面倒だと逃げる小和田君。

二人がたまたま入った無間蕎麦。一心不乱に蕎麦をすする客がぽんぽこ仮面を歓待してくれた。と思ったのもつかの間、店主が彼を捕まえにかかる。組み伏せて聞くと店主は命じられたのだという。命じたのは下鴨幽水荘というアパートを本拠地とする秘密結社だった。一人で彼らに敢然と立ち向かうぽんぽこ仮面、正義の味方よろしく組み伏せて聞くには「俺たちも命じられたのだ」。命令を発した閨房調査団、京都の商店街の人々みんながいっせいにぽんぽこ仮面を捕まえにかかる。「俺たちもこんなことしたくない」「命じられたから仕方ない」と口々にいいながら。指揮命令系統は複雑で何重にも絡み合い、重なりあう。本当の命令者は誰なのか。いったい何のために正義の味方ぽんぽこ仮面を狙うのか。窮地を見た小和田君は、内なる怠け者と折り合いをつけながらのっそりと立ち上がる…

本書は宵山の土曜日の一日の出来事を書いている。『有頂天家族』や『宵山万華鏡』と登場人物が重なり合う。神様と人間がともに暮らしている京都で、神様と人間の距離が一番近くなる祇園祭。人間らしい人間に神のような人間、人間のような神、そして人間以前に怠け者である小和田君。カオスな登場人物たちが混濁した世界を織り成していく。それを見た世界一怠け者の探偵である浦本探偵は「潮が充ちた」と評する。言いえて妙である。

筋金入りの怠け者と筋金入りの正義の味方。人から神に近づくと、ふしぎな世界が見えてくるのかもしれない。