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10年後の給料を増やすには?

渡邉正裕(2012)『10年後に食える仕事 食えない仕事』東洋経済新報社

小林研業(新潟県燕市)は、当初、アップル「iPod」のボディ背面の鏡面磨き上げを請け負い、安倍晋三首相(当時)が訪れたことでも有名だ。ところが、ほどなく人海戦術でコスト競争力のある中国にすべて移管されてしまった。他社にはマネできない決定的な技術というわけではなかったのだ。(本書 p.146)

前回紹介した『世界と闘う「読書術」思想を鍛える1000冊』で佐藤優が言及していた本書は、分かりやすくて面白い。「下品だけれども非常に説得力があります」(前掲書 p.235)とほめている。

著者の言ってることは単純で、全職種を4つに分類する。「重力の世界」「無国籍ジャングル」「ジャパンプレミアム」「グローカル」のうち、これから生き延びるには日本人にしかできない「ジャパンプレミアム」(公務員、料理人、旅館の女将、保険外交員など)か「グローカル」(国会議員、弁護士、不動産鑑定士、人事担当者など)になるしかないといいきる。

「重力の世界」はまさに低いところが基準となる世界で、プログラマや電話オペレーターなどの単純労働者が該当し、同じ日本人を1人雇うにしても日本で15万円払うより中国で5万円払うほうが同じクオリティで競争力がケタ違いであることは明らかだ。この逆が「無国籍ジャングル」で大手企業の経営者や投資家、アーティストが該当する。勝てば数十億円の年収も夢ではない青天井だが、翌年には年収1万円になるかもしれない。そんな70億人との「仁義なき戦い」をするよりは、少なくとも数10年は人口1億人が約束される日本で生き延びるほうがいい、と著者は説く。

この手の著者は大体が強者で、弱者に対する視点が抜けるものだけど、本書の著者は違う。雇用の安全保障として、タクシードライバーや介護士などの「重力の世界」の仕事は規制をかけて、最後まで移民にやらせないようにすべきだ、と述べる。弱者への視点をおろそかにしない点が、本書の価値をあげている。