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レビュー

国際情勢は穿って見たら面白い

手嶋龍一, 佐藤優(2013)『知の武装―救国のインテリジェンス』新潮社

たとえば「金正日の料理人」として有名な藤本健二さん、実は本名じゃないんですが、彼は北朝鮮の権力者のすぐそばにいた人で、今もなかなかの事情通です。北朝鮮は、この藤本さんに託す形で、現指導部の何人かの映像や金正恩第一書記と婦人の映像を流しています。(本書 p.68)

手嶋龍一と佐藤優の3冊目の対談本。この二人はインテリジェンス(情報を扱う仕事)をやっていただけあって、関心の所在が似ている。

帯にもある通り、本書では東京五輪決定が日本を取り巻く国際情勢にどのような影響を与えたか、スノーデンのCIA諜報活動の暴露や鳩山元首相のイラン訪問、飯島秘書官の訪朝にも切り込んでいる。話はTPPや憲法改正、日本と中国の関わりなど多岐に及んでいて、メディアでは殆ど報じられない見方を呈示してくれる。

引用に示した藤本さんの話もそうだ。彼はサングラスとバンダナで素顔を隠してテレビに出る。金王朝の秘密を知り過ぎたため狙われているから、という理由だけど、映像を流すなど、いまでもつながりがあるし、そもそも素性はバレている。いったい何から隠れているのだろう。

本書で注目したのは明治時代、単身ロシアにわたって写真技師や洗濯屋などに扮しながらシベリア鉄道などの軍事機密や軍人の内部事情などを探った石光清真の話。とても面白い。彼は軍を離れて食べながら、それでいて軍の仕事をしていたのだ。