自由主義経済の行き着く先を語る


手嶋龍一・佐藤優(2014)『賢者の戦略 生き残るためのインテリジェンス』新潮社

金持ちたちの間には、「このままだと庶民のヤキモチによって叩き潰されてしまう」という危機感が芽生えてきます。そして「自らの富を自発的に分配しない限り生き残れない」という結論に達するわけです。(本書 p.254)

賢者の戦略 (新潮新書)

時流に乗った対談を扱うものの、慧眼から息の長い内容を語ることで有名な佐藤優の対談本だ。今回はNHKワシントン支局長をしていた手嶋龍一との対談、第三弾。

2014年に出ただけあって、当時話題になっていたイスラム国を中心とした中東情勢、それとウクライナを中心としたヨーロッパの情勢が語られる。どちらも佐藤が主戦場とするところだ。

国際情勢を横目に見つつ、一般庶民としてどう生き残るかを知るにはいい本だ。国際情勢はなにもエリートの仕事にだけ影響するものではない。原油価格の乱高下や政府の姿勢など、庶民の暮らしにもジワリジワリと効いてくる。だから先を読んで対策を立てることが大事になる。

そのためには、インテリジェンスの世界では梅の上といった普通の人に近い感覚を持った著者が書いた『CIA諜報員が駆使するテクニックはビジネスに応用できる』がオススメだと佐藤はいう。誰にでも実践できるテクニックが書いてあるからだと。

さて、肝心のタイトルのお話。自由主義経済が行き渡り、金持ちはますます富み、貧者はますます貧しくなる。格差が増えると階級間に軋轢が生じ、金持ちが狙われるようになる。だから金持ちは富を分配して恨みを買わないようにしないと生き残れないと悟る。現にビル・ゲイツが財団を作って奨学金を作ったりしている。歴史を振り返ると日本でも似たような例はある。東大の安田講堂も安田財閥から寄付された。歴史は繰り返す。一時の悲劇を伴いながら。



拉致事件は世界的な作戦の一部だった?


手嶋龍一(2007)『ウルトラ・ダラー』新潮社

「K・Tさんよ、そこのけじめをつけていただくために、こうして写真をお送りした。(中略)」
「俺の名はクンじゃない、イサオだ。呼ぶならI・Tといいたまえ」
(本書 p.327)

前回紹介した『知の武装』で手嶋龍一本人が産経新聞を引用する形で、瀧澤勲 外務省アジア・大洋州局長のモデルが田中均 元局長とされたと言っている(本人は誰をモデルにもしていない、と述べている)。瀧澤が外交交渉の記録を残していないことと、田中が安倍首相にfacebook上で名指しで「交渉の公式記録を残さなかった」と指摘されたことは偶然にすぎる一致だし、均をキンと呼ぶ人もいた(石原慎太郎など)ことから、K・Tさんと呼ばれていたのも事実じゃないかと思えてくる。

ともあれ、手嶋龍一との対談本でも、本書の解説でも佐藤優が絶賛する通り、本書はインテリジェンス小説(近未来に起こりうる事象を扱った小説)として面白く、読み応えのある出来になっている。

本書を読むと、一部の拉致事件の真相がうっすらと見えてくる。それは北朝鮮を介して、東アジアにおけるアメリカの影響力低下を狙う作戦の一部としての拉致事件という姿だ。国際的な事件は他の事件と結び付けて見ると、真相が見える場合もある。本書はその一つの可能性を示している。


国際情勢は穿って見たら面白い


手嶋龍一, 佐藤優(2013)『知の武装―救国のインテリジェンス』新潮社

たとえば「金正日の料理人」として有名な藤本健二さん、実は本名じゃないんですが、彼は北朝鮮の権力者のすぐそばにいた人で、今もなかなかの事情通です。北朝鮮は、この藤本さんに託す形で、現指導部の何人かの映像や金正恩第一書記と婦人の映像を流しています。(本書 p.68)

手嶋龍一と佐藤優の3冊目の対談本。この二人はインテリジェンス(情報を扱う仕事)をやっていただけあって、関心の所在が似ている。

帯にもある通り、本書では東京五輪決定が日本を取り巻く国際情勢にどのような影響を与えたか、スノーデンのCIA諜報活動の暴露や鳩山元首相のイラン訪問、飯島秘書官の訪朝にも切り込んでいる。話はTPPや憲法改正、日本と中国の関わりなど多岐に及んでいて、メディアでは殆ど報じられない見方を呈示してくれる。

引用に示した藤本さんの話もそうだ。彼はサングラスとバンダナで素顔を隠してテレビに出る。金王朝の秘密を知り過ぎたため狙われているから、という理由だけど、映像を流すなど、いまでもつながりがあるし、そもそも素性はバレている。いったい何から隠れているのだろう。

本書で注目したのは明治時代、単身ロシアにわたって写真技師や洗濯屋などに扮しながらシベリア鉄道などの軍事機密や軍人の内部事情などを探った石光清真の話。とても面白い。彼は軍を離れて食べながら、それでいて軍の仕事をしていたのだ。