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レビュー

つい世界一周に出たくなる

VERNE, Jules. (2001), Voyage au centre de la terre, Le Libre de Poche

La malheureuse créature ne venait pas tendre sa main déformée ; elle se sauvait, au contraire, mais pas si vite que Hans ne l’eût saluée du « saellvertu » habituel.

— « Spetelsk, disait-il.
— Un lépreux ! » répétait mon oncle.

Un lépreux, répétait mon oncle.Et ce mot seul produisait son effet répulsif. Cette horrible affection de la lèpre est assez commune en Islande ; elle n’est pas contagieuse, mais héréditaire ; aussi le mariage est-il interdit à ces misérables.(本書 pp.97-99)

(そのみじめな生き物は変形した手を差し出さなかった。彼女は自力で生きているのだ。しかし逆に、ハンスはいつも「saellvertu」と呼んで嫌っていた。

「saellvertu」彼は言った
「ハンセン病だ!」おじさんは繰り返した。

ハンセン病、おじさんは繰り返した。そしてこの言葉自身が私に不快感を引き起こした。ハンセン病というこの恐ろしい病気は、アイスランドではとても一般的である。感染性はないが遺伝する。そしてこの悲劇の者同士の結婚は禁止されている。)

ご存じのとおり映画化までされたJules Verneの『地底旅行』。著作権が切れてしまっているのでwikisourceで全文が原文で読める。だから買う必要は必ずしもなかったのだけど。

ちょっと変な鉱物学者のおじさんがたまたま発見した文献でアイスランドに地底への穴があいていることを発見する。変なおじさんなので甥っ子を連れて本当にアイスランドまで行ってしまう。行ったら本当に穴があったので入っていく。するとそこには想像しなかった別世界が広がっており、見たこともないような動植物が繁栄していた。

途中、おじさんと甥っ子が離ればなれになってしまったり、嵐に遭ったりと冒険しながら、最後はどうやってこの世界から出るのか…というところで手に汗握る展開になる。

上に引用した箇所のようにハンセン病患者が渺漠とした世界の点景として描かれているあたり、時代を感じさせる。

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レビュー 大宅壮一ノンフィクション賞

真っ赤な嘘でも真実だ

米原万里(2010)[2004]『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』角川学芸出版

「牛乳の生産でアメリカに追いつき、追い越そうな!」

走り方が雌牛みたいだと言われたアーニャにこういう声のかけ方をする友情というかセンスはいいな、と思った。

こちらはノンフィクション。一般市民が普通に文通を続けることもままならなかった時代の、遠い国同士の友情の物語。

三十数年ぶりに旧友に会いに行く話が面白くないわけないのだけれど、それがまた国家や世界史に運命を翻弄された方々の話だけに余計に面白い。まさに事実は小説よりも奇なり。

個人的には一本筋を通して自分を崩さないリッツァや、一歩引いたクールな立場のヤスミンカには好感を持てたが、肝心のアーニャには、自分の都合のいいようないいわけで現状を受け入れている感じがあって、いまいち感情移入できなかった。巻末で斉藤美奈子が指摘しているとおり、これがあの国のあの時代の生き方だったのかもしれない。

面白さや感動とともに、いろいろと考えさせられる本だった。

ただ、佐藤優が『国家の罠』で書いているとおり、信念を曲げない生き方が一番幸せだというのは、一理も二理もあると改めて思った。

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Bunkamuraドゥマゴ文学賞 レビュー

時間を短く感じるには持ってこいだね

米原万里(2009)[2005]『オリガ・モリソヴナの反語法』集英社

おもしろい!

スターリン時代を挟んだソ連を中心とする共産主義陣営の中で翻弄されたダンサーの物語。著者の体験を糸口として始まるフィクションであるため、よく作りこまれている。共産主義の暗さを感じさせない登場人物の明るさ、感動とすがすがしさ。一気呵成に読み下した。

巻末にある著者と池澤夏樹の対談で、共産主義陣営にあったチェコの学校の方が、資本主義陣営にあった日本の学校より自由があった、という指摘は大変興味深かった。

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レビュー

中国語でも美しい村上春樹のデビュー作

村上春樹著;賴明珠訳(2009)[1988]『聽風的歌』時報文化出版企業股份有

「嗯…你喜歡燉牛肉嗎?」
「喜歡.」
「我做好了,可是我一個人吃要一星期才吃得完,你要不要過來吃?」
「不錯啊.」
「OK,一個小時過來.如果遲到我就全部倒進垃圾桶噢,知道嗎?」
「可是……」
「我最討厭等人了,就這樣.」

(「うん…ビーフシチュー、好き?」
「好きだよ」
「私作ったの。でもね、もし一人で食べるとなると1週間くらいかかりそう。よかったら食べにくる?」
「いいね」
「OK、じゃあ1時間後に来て。もし遅れたら全部ゴミ箱に捨てるから。わかった?」
「でも……」
「私、人を待つのが一番いやなの」)
(本書 p.89)

「我常常想,如果能不麻煩任何人而活下去該多好.你覺得可以嗎?」
她這樣問.
「不曉得.」
「嘿,我有沒有給你添麻煩?」
「沒有哇.」
「到現在為止噢?」
「到現在為止還沒有.」

(「私はいつも思っているの、もし誰にも迷惑かけずに生きていけたらどれだけいいか、って。どう思う?」
彼女はこう聞いた。
「わからないね」
「ねえ、私はあなたに迷惑かけてる?」
「いいや」
「いまのところ?」
「うん、いまのところないよ」)
(本書 p.96)

このあたりの、彼女の不器用な性格に、ついつい惹かれた。

いわずと知れた村上春樹の『風の歌を聴け』の中国語版。台北で買った。日本語で読んだらあの美しさがわかるってのに、もったいないしあまのじゃくな話だ。

日本語のやつでこの個所がどうなっているか、調べてないからわからないけど、僕の表現力のイマイチさが明らかになった。