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現代的でもあるファシズム

佐藤 片や、ファシズムは出自や民族、人種は問いません。そこにファシストと民族主義者や人種主義者の違いがあります。

(本書 p.65)

片山 (前略)明治国家体制では、ヒトラーのように天皇は演説もしなければ具体的命令も滅多にしない。ここに同じ束ねる原理でも大きな相違があります。

(本書 p.109)

佐藤優と『未完のファシズム』の著者、片山杜秀の対談本です。二人の対談は『平成史』に続くものです。

ファシズムはイタリアのムッソリーニが第二次大戦中に敷いた体制で、同じ枢軸国だったナチスドイツと同様、独裁体制であったと思われがちです。しかし、両者には決定的な違いがありました。

ヒトラーは人種主義を掲げ、アーリア人種以外は劣っており、ユダヤ人はこの世から抹殺しなければいけない、という排除の思想が働いていました。一方、ムッソリーニが提唱したファシズムはイタリアに協力するものならイタリア人であり、国家のためにみんなで束になって協力していこうという体制でした。排除ではなく、包摂し、束ねていく発想です。

一方の日本はどうだったのでしょう。国内の体制的には行政、司法、立法が独立して存在していました、内閣と同時に枢密院があり、内閣の決定を枢密院が覆すこともできました。内閣には各省庁の調整機能を求められました。そうしたばらばらの状況をまとめたのは、天皇でした。ペリー来航の折、まだ国内は幕府を始めとする各大名が群雄割拠する時代でした。ここでもう一度戦国時代を初めて、大きな将軍を決めても良かったのでしょうが、そんな隙に西洋から入ってこられます。だからたまたま、天皇を使って統治し始めたわけです。しかし、天皇がなにか大きな権力を奮って、それの責任を問わされたり、第二の徳川が現れたりしないよう、天皇は下から上がってきた議題の説明を受け、「あっそう」と返すだけにしていました。こうしたやり方が、日本的な未完のファシズムといえると思います。

ファシズムは危機のときに発生しがちです。ろくに議論せずに勧めていく姿勢がファシズムです。「この道しかない」という発想はファシズム的です。

しかしファシズムは弱者も包摂します。国のために頑張るものが国民なのですから、強いものが弱いものを支え、自分たちの力の限り国を支えるべきだ、という発想です。国民は多いほうが強いですし、排外主義的になると束が細ります。

本書でファシズムへの理解が深まることは間違いありません。

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雑炊の時代、平成を振り返る。

佐藤優、片山杜秀(2018)『平成史』小学館

片山 不況のなかで育った若者たちは騙されていたと気づいたんでしょうね。自由だ、自由だ、と言われて、実は捨てられているのだと。(本書 p.30)

佐藤 (中略)政治でもメディアでも情報は皇居を中心にして半径5キロ以内に集中している。『そこまで言って委員会』はそこから外れて独立している面白い存在です。(本書 p.176)

本書はタイトルで半藤一利『昭和史』を思い出させます。バブル崩壊で始まり、何度かの自然災害とテロとの戦いを経て憲政史上初の天皇生前退位で幕を閉じる(予定の)平成について語り尽くした対談です。内政、外交から東京タラレバ娘シン・ゴジラに至るまで、硬軟合わせた話題で対話が進んでいきます。

平成は何が起きるかわからない雑炊のような時代、あるいはポストモダン的なパッチワークの時代です。特に政治では世界的に独裁的な傾向が強くなりました。日本も例外ではありません。「戦後レジームからの脱却」を掲げた安倍政権は、文面通りに読めば「脱アメリカ」なのかと思いきやトランプ政権とは蜜月の関係にあります。小泉政権以降、こうしたその場の勢いでふわっと乗り切る傾向が強まりました。それは反知性主義の拡大であり、裏返していうと橋下大阪府知事やなんとかチルドレンと呼ばれる大した哲学のない、やりたいことのない政治家が増えたことにも繋がります。

二人がたびたび指摘しているのは、中間団体の消滅です。かつては労働組合などが力を持っていて、国家と個人を取り結ぶ中間団体に働きかけることで民意を選挙結果に反映させることができました。しかし公社の解体などを経て、いまや国政に影響を与える中間団体は創価学会だけになりました。そのため、マスコミや世間の空気で選挙結果が大きく左右されることになりました。そうした空気をくみとってか、手続きのかかる民主主義から劇場型政治へと変わっていきました。

二人は、平成は昭和の遺産を食いつぶし、豊かだったが幸せかどうかはわからない時代だったと結論づけます。食いつぶすことしかしなかった時代の、次の時代は何かを生み出さねば右肩下がりになります。困難な時代だからこそ、冷静に、時間をある程度かけて今後の練らねばいけません。個人レベルでは、そうした次代を見据えて生き抜く方法を考えないといけません。

本書で語られていないもう一つの大きなできごとは2度あった全日空機ハイジャック事件とネオ麦茶こと西鉄バスジャック事件でしょう。前者で警察にSAT(特殊急襲部隊)があること、後者ではバスの窓の幅にちょうど合うはしごが準備されたことから、バスジャックを想定した訓練を行っていることが明らかになりました。その後、通信傍受法などができて、日本の警察のテロ対策も着々と進みます。結果、中核派や日本赤軍の大物を検挙するに至りましたが、同時に息苦しい社会となっていきました。これもオウム真理教や911、イスラム国などとの文脈で語られていい事件だったと思います。



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