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レビュー

AKB、村上春樹、宮﨑駿から見える世相

佐藤優、斎藤環(2015)『反知性主義とファシズム』金曜日

佐藤 だから、沖縄の中で『風立ちぬ』がどういう感じなのかっていうことは面白いと思うんです。
斎藤 普通に感動できなくはないでしょう。まあ、カタルシスはないですけれども。
佐藤 教養の水準が低ければ感動しますよ。
斎藤 私は感動したくちですが(笑)。
佐藤 歴史知識がなければ感動します。(後略)(本書 p.177)

斎藤 韓国では、ITはけっこう選挙への影響力はありますね。アメリカでもオバマは、ネットの力で大統領になりましたから。日本だけが違います。
佐藤 だから、日本では、ハフィントンポストが今ひとつ力を持たないですよね。
斎藤 オーマイニュースもダメでしたし。ああいうのが全然流行らないです。リアルとバーチャルをつなぐ意思がないというか。
佐藤 じゃあ、やっぱりAKBみあいなのがいいわけですね。
斎藤 せいぜい握手がリアルですよ(笑)。
佐藤 抱きつくことはできないけど、握手まではできる。
斎藤 古いセリフですが「抱けないけど、抱きしめられる」ってやつです(笑)。(本書 p.239)

みんな大好きAKB48、村上春樹、宮﨑駿を題材に、現代の知性である二人が世相を読んでいきます。彼らが流行る理由はなぜなのか、そこからどんな世相が読み取れるのか。

まず最初に、二人の基本認識に大きな違いがあることを知っておかねばなりません。佐藤優は日本でもファシズムが起こりうると考えています。一方で斎藤環は日本でファシズムは起こりえないと考えています。佐藤優の考えの基礎は中世に端を発する神学で、斎藤環はラカンを中心としたポストモダンの現代思想です。

土台の違う二人の対談が噛み合わないかというとそれが意外に噛み合います。おそらく、お互いが違うことを理解しながらも、分かり合おうと真摯に向き合っているからでしょう。

本書で語るAKB、村上春樹、宮﨑駿の話は前フリにすぎません。メインテーマはタイトルにあるとおり、ファシズムです。日本でファシズムが起こりうるかどうかという問いについて、斎藤は萌芽は見られるけれども成熟しないと言います。日本のファシズム制は天皇独裁しかありえませんが、しかし天皇は国民を映し出す形での統治しか許されていないから、ファシズムは成熟しないという立場です。一方、佐藤は能力は低いがやる気のある官僚が反知性主義的な政治家を悪用するとファシズムは起こりうるとしています。

いずれにせよ、今は生きづらい世の中です。もっと生きづらい世の中にしないためには、学びながら小さな声を上げ続けるしかありません。


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