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まなびはじめ

瀧本哲史も怖くない!(3)

土俵のずらし方

 弟子: 絶望から抜け出すにはどうすればいいのですか?
ウチボリ: 本書のバックグラウンドを知ることだ。
  弟子: バックグラウンド?
ウチボリ: そう。歴史の中での本書の位置づけだ。
  弟子: この本が歴史とどう関係あるんですか?
ウチボリ: 過去にこの本と似たようなことが書かれているんだよ。
  弟子: そうなんですか!?
ウチボリ: そう。本当にクリエイティブなものも何かを参考にしている。
  弟子: 知らなかった…具体的にはどんな本ですか?
ウチボリ: マルクスの『資本論』さ。
  弟子: 大御所がきましたね…
ウチボリ: 読んだ?
  弟子: 読んでません。
ウチボリ: 正直だね。
  弟子: 教えてください。
ウチボリ: 好感もてる。
  弟子: はやく!
ウチボリ: 分かった、分かった。それが教わる態度かな…
  弟子: おおおねがいします。
ウチボリ: 『資本論』はいくつもの読み方ができるが、要点は以下の二つだ。

  1. 資本家が労働者を使って利益をあげる
  2. 資本家と労働者の関係は永遠に変わらない

 弟子: 絶望だ、また絶望がやってきた!
ウチボリ: たしかに、絶望だ。
  弟子: 希望はないのですか…
ウチボリ: あるよ。
  弟子: 教えてください。
ウチボリ: 好感もてる。
  弟子: はやく!
ウチボリ: どこかで見たな、このやりとり…
  弟子: おおおねがいします。
ウチボリ: 瀧本の本に書いてあるじゃないか。
  弟子: わかりませんよ、もう。
ウチボリ: 似たような内容の本に『金持ち父さん貧乏父さん』がある。
  弟子: 昔のベストセラーだ!
ウチボリ: そう。
  弟子: どういう内容なんですか?
ウチボリ: サラリーマンは使われるだけ、稼ぎたかったら起業しろ、という内容だ。
  弟子: 起業しても失敗するかも知れない。
ウチボリ: 成功するために著者の開発したボードゲームを薦めている。
  弟子: 買わないと!
ウチボリ: だから! それが「使われるだけ」なんだ。
  弟子: んん???
ウチボリ: 使われる方は稼げない。搾取されるだけだ。
  弟子: そうですね。
ウチボリ: 結局『金持ち父さん貧乏父さん』『資本論』と同じことを述べている。
  弟子: あれ、じゃあもしかして?
ウチボリ: そう、瀧本の本もおんなじだ。
  弟子: 周期的に似た内容の本が出るんですね。
ウチボリ: 大事なことだけど、人は忘れちゃうからね。
  弟子: 絶望から逃れるにはどうすればいいのですか?
ウチボリ: 二つ方法がある。

  1. 資本家になる(=起業する)
  2. 資本家が無視できない労働者になる(=熟練労働者になる)

 弟子: 瀧本はそんなこと言ってましたっけ?
ウチボリ: みてみよう。

『僕は君たちに武器を配りたい』

  1. トレーダー=とれた魚をほかの場所に運んで売ることが出来る漁師
  2. スペシャリスト=一人でたくさん魚をとるスキルを持っている漁師
  3. マーケター=高く売れる魚を造り出すことができる漁師
  4. イノベーター=魚をとる新たな仕組みを作り出す漁師
  5. リーダー=多くの漁師を配下に持つ、漁師集団のリーダー
  6. インベスター=所有する船に乗っている漁師に魚をとらせる

1と2は生き残れない。生き残りたければ3~6のいずれかになれ。

 弟子: 3~5が熟練労働者で6が資本家だ!
ウチボリ: そう、結局同じことを言っているんだ。

資本主義を見つめなおす

 弟子: でも、先ほど言われたように、5や6には配下の漁師が必要です。
ウチボリ: そうだ、彼らは一人では何もできない。
  弟子: 絶対に搾取される人の方が多くなります。
ウチボリ: そのとおり。
  弟子: じゃあ、多くの人にとって絶望しか残らない…
ウチボリ: 資本主義の中で生きる限りにおいてはね。
  弟子: どういうことですか?
ウチボリ: 資本主義を相対化するんだ。
  弟子: 共産主義者になれということでしょうか。
ウチボリ: 違う。組織で働くだけが人生じゃないだろう?
  弟子: その通りです。お盆に正月、週末祝日アフター5…
ウチボリ: わかった、わかった。な、仕事だけが人生じゃない。
  弟子: 余暇を充実させないと!
ウチボリ: そう。人は資本主義だけで生きているわけじゃない。
  弟子: 日本でもですか?
ウチボリ: 地域によるけど、現金収入がなくても食べていけるだろう?
  弟子: 野菜作ったり、魚を捕ったり。
ウチボリ: そう。資本主義の外で生きていくことも可能だ。
  弟子: じゃあ瀧本の本を読んで絶望する必要はないのですね?
ウチボリ: そうだ。彼が教えるのは資本主義を生き残る方法だ。
  弟子: 安心しました!
ウチボリ: 落ち着いたね。
  弟子: 資本主義の外ではどう生きればいいのですか?
ウチボリ: それぐらい自分で考えろ、と言いたいが…
  弟子: 言いたいが…何かある。
ウチボリ: その辺りは、たとえば佐藤優がよく書いている。
  弟子: 教えてください。
ウチボリ: いいよ。
  弟子: 軽い!
ウチボリ: だけど、また別枠で語り直そう。
  弟子: 分かりました。瀧本の本は読まなくてもいいんですね?
ウチボリ: そうじゃない。資本主義で生き残るには有効だ。
  弟子: 資本主義の内と外、一体どっちで生きればいいんですか!?
ウチボリ: それを考えさせるところに、本シリーズの意義があると思うね。
  弟子: セコイ逃げ方!

(了)


資本論〈第1巻(上)〉 (マルクス・コレクション)

資本論〈第1巻(下)〉 (マルクス・コレクション)

金持ち父さん貧乏父さん
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瀧本哲史も怖くない!(2)

一握りのための本

 弟子: 彼の本をちゃんと読んだつもりなのです。
ウチボリ: 彼の本を読んでいるとついその通りだと思っちゃうよね。
  弟子: その通りです。だから僕も世界で戦える人材に
ウチボリ: だから落ち着け。そもそもおまえは世界で戦えるのか?
  弟子: え?
ウチボリ: 語学は?
  弟子: 英語を少々…
ウチボリ: 世界で戦ったことは?
  弟子: ありません。
ウチボリ: 本1冊読んだだけで世界を相手に戦うのか?
  弟子: …準備不足かも知れません。
ウチボリ: 準備不足どころか、確実にコテンパンにされる。
  弟子: 戦ってもないのになぜ言い切れますか!
ウチボリ: もうすでに瀧本の戦略に載せられてるからだ。
  弟子: 戦略?
ウチボリ: そう、彼の言うことを鵜呑みにしている。
  弟子: はあ。
ウチボリ: ということは、世界でも相手の言うことを鵜呑みにしてしまう。
  弟子: はい。
ウチボリ: 海千山千の人たちにとって、本1冊でコロリとなる男はたやすいよ。
  弟子: むむむ。
ウチボリ: それに、この武器シリーズはどれだけ売れたか知っているか?
  弟子: 30万部を越えるベストセラーです!
ウチボリ: ということは、単純計算でどれだけが読んでいる?
  弟子: 30万人…
ウチボリ: 30万人だ。30万人の中で上位層に行ける自信は?
  弟子: 大丈夫です、ノリで買ったやつが大半でしょうから。
ウチボリ: お前がいうか! そもそも、この本のネタ元はどこだ?
  弟子: 京大の授業らしいです。
ウチボリ: じゃあ、たくさんの京大生も買ってるだろうね。
  弟子: そんな、まさか…
ウチボリ: 買ってるだろうね。
  弟子: ううっ
ウチボリ: 京大生、東大生を含めた30万人だ。
  弟子: やめて…
ウチボリ: 勝ち目があると思うか?
  弟子: ううううう
ウチボリ: どうなんだ、勝ち目があると思うか?
  弟子: …ありません。
ウチボリ: 加えて、
  弟子: 僕はもう瀕死です。
ウチボリ: 京大生、東大生だと読む前にここまで考えるやつもいる。
  弟子: 確かに…
ウチボリ: 手にした時点で差はついている。
  弟子: 勝ち目はないですね…
ウチボリ: そうでもない。
  弟子: えっ
ウチボリ: そうでもない。
  弟子: もう一回言って!
ウチボリ: もう言わない。
  弟子: ということは、僕でも勝てると。
ウチボリ: 都合よく聞いてるな。
  弟子: どっちなんですか!
ウチボリ: 普通の人では勝てないけれど、負けない方法ならある。
  弟子: 負けない方法?
ウチボリ: そう、負けない方法だ。
  弟子: どういうことですか?
ウチボリ: 土俵をずらすんだ。
  弟子: 土俵をずらす?
ウチボリ: 具体的に話していこう。

読み始めたらもう遅い

 弟子: この本のターゲットは誰ですか?
ウチボリ: 意識高い系の学生だろう。
  弟子: 意識高い系?
ウチボリ: 本当に意識の高いやつは、読む前に知って行動に移してる。
  弟子: たしかに。
ウチボリ: 本書は授業の内容だろう?
  弟子: 受講生は有利ですね。
ウチボリ: 読み始めた時点で勝負は決まっているのさ。
  弟子: じゃあ、どうすればいいんですか!
ウチボリ: もう一度、最初に紹介した『僕は君たちに武器を配りたい』を復習しよう。

『僕は君たちに武器を配りたい』

  1. トレーダー=とれた魚をほかの場所に運んで売ることが出来る漁師
  2. スペシャリスト=一人でたくさん魚をとるスキルを持っている漁師
  3. マーケター=高く売れる魚を造り出すことができる漁師
  4. イノベーター=魚をとる新たな仕組みを作り出す漁師
  5. リーダー=多くの漁師を配下に持つ、漁師集団のリーダー
  6. インベスター=所有する船に乗っている漁師に魚をとらせる

1と2は生き残れない。生き残りたければ3~6のいずれかになれ。

 弟子: 3~6になるのも難しければ、どうすれば…
ウチボリ: このうち、リーダーとインベスターは一人じゃなれないだろう。
  弟子: たしかに。配下に漁師が必要です。
ウチボリ: その配下の漁師になって使われるしかないんじゃないかな。
  弟子: いじわる!
ウチボリ: 本書を読み始めた時点で、使われる側なのはほぼ確定だ。
  弟子: もう絶望しかありません!
ウチボリ: まあ早まるな、まだチャンスはある。
  弟子: 一体どんな…
ウチボリ: それがさっきの、土俵をずらす話につながるんだ。

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瀧本哲史も怖くない!(1)

武器シリーズの引力

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瀧本哲史

 弟子: やっぱりこれからの世の中、ディベートが大事です。
ウチボリ: いきなりどうしたの。
  弟子: 最近本を読んでいるのです。
ウチボリ: それはいいことだ。
  弟子: 読んだ本にディベートが大事とあったのです。ふふん。
ウチボリ: ディベートの本だったら、そう書いてあるでしょう。
  弟子: 違います!
ウチボリ: 何を読んだ?
  弟子: 瀧本哲史(2011)『武器としての決断思考』星海社新書です。
ウチボリ: ああなるほど。前は「戦える人材になりたい」とかいってなかった?
  弟子: そんな過去もありました。
ウチボリ: 瀧本哲史(2011)『僕は君たちに武器を配りたい』講談社を読んだな。
  弟子: なぜ分かったのですか。
ウチボリ: 今は瀧本哲史(2013)『武器としての決断思考』星海社を読んでいる。
  弟子: 千里眼! 千里眼だ!
ウチボリ: だいたい分かるよ…君は影響を受けやすいからね。
  弟子: それが短所のようにみえて長所なんです。
ウチボリ: 捉えようだな。
  弟子: ディベートをやって、交渉もできる、世界で戦える人材になりたいんです。
ウチボリ: 気持ちは分かるが、乗せられすぎだ。
  弟子: どういうことですか?
ウチボリ: せっかく三部作とも読んでるようだから瀧本の読み方をアドバイスしよう。
  弟子: ずいぶんえらそうですね。
ウチボリ: 彼は引力が強いから気をつけて読まないといけないんだ。
  弟子: 引力が強い?
ウチボリ: まずは読んでない人のためにざっと彼の三部作の筋を振り返ろう。

『僕は君たちに武器を配りたい』

  1. トレーダー=とれた魚をほかの場所に運んで売ることが出来る漁師
  2. スペシャリスト=一人でたくさん魚をとるスキルを持っている漁師
  3. マーケター=高く売れる魚を造り出すことができる漁師
  4. イノベーター=魚をとる新たな仕組みを作り出す漁師
  5. リーダー=多くの漁師を配下に持つ、漁師集団のリーダー
  6. インベスター=所有する船に乗っている漁師に魚をとらせる

1と2は生き残れない。生き残りたければ3~6のいずれかになれ。

『武器としての決断思考』

『僕は君たちに武器を配りたい』ではコモディティになるな、スペシャリストになれと説いた。今度は「エキスパートになるな、プロフェッショナルになれ」ととく。

  • エキスパート=了見の狭い職人のようなもの
  • プロフェッショナル=相手の要望に応じていくつかの選択肢を論理的に示すことができる者

プロフェッショナルになるためにディベートを挙げる。それからはディベートの技術論に入っていく。

『武器としての交渉思考』

合わない人ととどうやり過ごすか?

  1. 価値理解と共感
  2. ラポール
  3. 自律的決定
  4. 重要度
  5. ランク主義者
  6. 動物的な反応

6類型に分けてそれぞれの対応法を教える。交渉相手が何に重点を置いているかを見極め、それにあわせた対処法を取っていく。

 
ウチボリ: 大体わかったかな?
  弟子: サッパリです。
ウチボリ: 清々しいね。
  弟子: わかりやすいのが一番です。
ウチボリ: そう、わかりやすいのが一番だ。瀧本の本は論旨がわかりやすい。
  弟子: どういうことですか?
ウチボリ: 伝えたい相手(ターゲット)と伝えたいこと(メッセージ)が明確だ。
  弟子: なるほど。
ウチボリ: ここまでわかれば、あとは簡単だ。
  弟子: しっかり読んで身に付ける、と。
ウチボリ: 違う! 彼の言いたいことが自分の考えと合っているか考えるんだ。
  弟子: やっぱりわかりません。瀧本のほうがわかりやすい。
ウチボリ: 落ち着いて、順に見ていこう。